ポール・クルーグマン「才能・努力よりも生まれが重要とされつつあるアメリカ」

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原文:Paul Krugman,”Wealth Over Work”/The New York Times/MARCH 23, 2014

ポール・クルーグマン(経済学者/米プリンストン大学教授/ニューヨークタイムズコラムニスト/2008年ノーベル経済学賞受賞者)

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「才能・努力よりも生まれが重要となりつつあるアメリカ」

フランスの経済学者、トマ・ピケティによる大著“21世紀の資本論” は本年最も重要な― そして恐らくこの10年においても ― 経済学の本となるだろう。ピケティは言うまでもなく、所得と富の不平等の研究における第一人者であるが、氏はますます少数の経済エリートに所得が集中しつつあるという現実を伝えること以上の事をこの大著で成し遂げ、世界が“世襲資本主義”へと後退中であるということを強い筆致で描いている。世襲資本主義においては、経済はただの富ではなく、努力や才能より生まれが重要である世襲された富によって支配されるのだ。

確かにピケティは我々の世界がまだそこ(世襲資本主義)には至っていないことを認めている。今までにおいて、アメリカの所得上位1%層の富の上昇は、遺産は言うまでもなく主として投機所得よりはむしろ企業役員報酬やボーナスによるものだった。しかし、現在のアメリカにおいて最も豊かな人物の10人中6人は、自身で財を築いた起業家ではなく相続者であり、すなわち今日、経済的エリートの子息達は巨大な特権的地位からスタートする。ピケティも述べている。「寡頭経済へと向かう危険は現実的であり、楽観主義を持つ理由はほとんどない」と。

さらに悲観的になりたいならば、実際にアメリカの多くの政治家達が意図していることを考えれてみればよい。アメリカの経済的寡頭主義はまだ生まれたばかりであり、十分には形作られていない 。しかし2大政党の一つは既に、少数エリートの利益を保護することに熱心なようだ。一部共和党議員による、少数エリートへの利益誘導は存在しないかのような熱心な努力にもかかわらず、多くの人は今日の共和党は一般的な家庭への利益より富裕層への利益を優先していると認識している。しかしながら、共和党が賃金やサラリーより資本回収を優先していることを理解している人は少ないのではないかと疑問に思う。そして相続されうるものである資本からの収入の賃金に対する優越、すなわち、不労所得の労働に対して圧倒するそのことこそが寡頭主義的な資本主義そのものにほかならない。

私が言っていることを理解してもらうために、実際の政策と政策提言から始めたい。一般的には、ジョージ・W・ブッシュは上位富裕層への減税と実施に向けて出来うることすべてをし、同様に行った中間層への減税は本質的に人気取りであったということで理解されている。だがこの減税による最大の受益者は、高い給料を得ている者ではなく利子で生活する者や広大な土地を相続した者であるという事はあまりよく理解されていない。確かに所得税の上限は39.6%から35%へ引き下げられた。しかし、株式配当金への上限税率は(一般所得として扱われ課税されていたことによる)39.6%から15%へと引き下げられ、相続税は完全に廃止された。

これらの減税のいくつかは、オバマ大統領になってから元に戻った。しかし、重要な点はブッシュ時代の大減税の推進は主として不労所得への減税であったということである。そして共和党は連邦議会の下院議会で再び過半数を得ると、彼らはすぐさまあるプランを持ち出してきた。 ポール・ライアン下院議員による”ロードマップ”である。

ロードマップでは、利子、配当、資本益、不動産収入に対して税控除を求めている。このプランにおいては、相続財産のみで生活する者は連邦政府に対して納税義務を全く負わなくてよいことになっていた。この富裕層の利益擁護に向けての政治的傾倒は、次のような逸話における傾倒の中にあらわれている。すなわち、共和党員は”雇用を産み出すもの”への賛美に傾倒することがしばしあり、アメリカの労働者について触れることを忘れている、ということである。

2012年、下院院内総務のエリック・カンター議員は労働の日において、ツイッターで企業家を讃えることによって祝ったのはよく知られたところだ。さらに最近においては共和党が退却した際、カンター氏は同僚議員に対して、大抵のアメリカ人は他者のために働いているということを触れ回ったという事が報道されたが、これはオバマが経済界を軽視しているとみなすことによって重大な問題を作り上げようとしたことによる。(さらなるところ、オバマにはそのような経済界の軽視ということはなかった。)

資本主義とは資本を持つ人には報酬を、持たない人には罰を与えるシステムである。これまでも常にそうだったし、そうだと示すことは実に容易といえる。これは単なる経済的寡頭体制へ向かう潮流以上のものであり、議会、司法、マスコミに至るまで全く歯止めがきかない。興味深いことに、納税面に関しては、共和党はパリス・ヒルトン以上に熟考する価値のある大工を見つけていない。実際、多くのアメリカ人は事業家ではないだけでなく事業収益も得ていない。そして一般的に資本からの収入はますます一握りの人々へと集中しつつある。1979年においては、アメリカの所得上位1%は事業収益の17%を占めていた。一方2007年には事業収益の43%、資本益の75%を得るまでになっていた。この少数のエリート達は、共和党による政治的恩恵の全てを得ているのである。

なぜこのようなことが起こっているのか?そう、(訳注:コングロマリッド「コークブラザーズ」経営者で保守運動ティーパーティーの仕掛け人とかつ大口スポンサーである)コーク兄弟やウォルマートを相続した4人はアメリカの富裕者上位10人に数えられることに留意してほしい。巨大な富は巨大な政治的影響力を持ち得る。 ― そしてこの影響力は政治キャンペーンを通してのみのものではない。多くの保守主義者はシンクタンクの知的バブルや、究極的には一握りの人間からの多大な寄付によって成り立つマスメディア(訳注:80年代からのメディア所有に関する規制緩和の結果、アメリカのマスメディアはほとんどが巨大メディアコングロマリット5社の影響下にある)の内側にいる。驚くまでもなく、これら実体のない世界の内部にいる人たちは、直感的に、経済寡頭主義がアメリカにとって良いことだと考える傾向にある。すでに述べてきたように、その結果は時として喜劇に終わってもおかしくはない。しかしながら、忘れないでほしい重要な点は、そのバブルの内側にいる人達は、絶大な権力を握っていて、その権力を彼らのパトロンのために行使するということであり、だから、独裁的な経済体制へ向かう潮流が続いているのだ。

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