【書評】フランクファート『不平等論:格差は悪なのか?』2点

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書評:フランクファート『不平等論:格差は悪なのか?』。2点

書評コーナー、今回は道徳哲学者ハリー・フランクファート著『不平等論:格差は悪なのか?』です。

・内容(「BOOK」データベースより)

経済格差が拡大する今日、「平等」には絶対的な価値があると考えられがちだ。しかし格差は本当に悪なのか?

道徳哲学の権威が、なんとこれに異を唱える!平等主義は往々にして、まちがった信念に基づいている。収穫逓減なんて嘘で、所得再分配で社会全体の満足度が増すことはない。

それどころか、平等主義はむしろ危険である。それはいったいなぜなのか?そして本当に重要なのは何なのか?経済的不平等から一歩踏み込んで、平等論そのものへの深い疑義へ。本書は格差論の本質にせまっていく。

さて、この100ページほどの短い文章については、訳者である著名評論家の方が、わざわざ長い紙幅(本文が100ページちょっとなのに、解説が44ページもある)を取って論駁を行っているのですが、それも納得といいいますか、まあ残念と言いましょうか。

個人的には「金返せ」と言いたくなるような本でした。

・本の構成

本著の構成においては、まず、大きく字数を割いて経済学が依拠する(と著者が考えている)限界効用逓減の矛盾が述べられ、そしてそのあとそこから、限界効用逓減に依拠した(と、これまた著者が考えている)再分配など「平等主義」への反駁を行っています。

・効用逓減とは

さて限界効用とは、平たく言えば「1単位当りの幸せ度(効用)」を示したもの。例えばある人のノドが乾いている場合、

0⇒1杯目の水はとってもおいしくて幸せを感じるけど、飲んでいるうちにあまり幸せでもなくなって、10⇒11杯目あたりでは、もはやあまり幸せでもなんでもない。

みたいなことを示したものであります。

幸せ度(効用)が、そのものを摂取していくに従って、どんどん減っていく(逓減)から「効用逓減」。

著者はこの効用逓減の間違い、すなわち実際には逓減だけでなく「逓増」もあることを、例を示して主張します。

・効用逓増モデルはとっくにある

しかし効用逓増があることは、、社会学や哲学などの分野においてとっくの昔から指摘されており(ジェイン・ジェイコブズの『アメリカ大都市の死と生』は1961年)、著者オリジナルのモノではありません。

さらに著者はこの「効用逓減の間違い」を引いて、「効用逓減に異教する経済学=平等主義の間違い」を示そうとするのですが、そもそも既に数十年前、経済学においても、収穫逓増を組み込んだ数理モデルが示されています。

それは例えば、

・知識や学力など知的資本が経済成長に影響をを与える「内生的経済成長理論」や、

・産業の規模の経済によって貿易が起こることを示したクルーグマンの「新貿易理論」

といったものが、それにあたります。

給付制奨学金の導入が取りざたされる昨今ですが、内省的経済成長からは国による大学教育投資の重要性が見いだされますし、また新貿易モデルにおいては、通常、格差を縮小させると(専門家の間では)考えられている自由貿易が、実のところ、格差を増大させることもありえるということが導ける、きわめて興味深いものとなっています。

著者は卑近な1例をもって、収穫逓減を論難しようとしているのですが、しかしこれは典型的な詭弁である「木を見て森を見る」論法そのもののように見えます。

そもそもにおいて、著者のいう「効用逓減は間違っている」云々の話についても疑問は残ります。効用逓減とはそもそもにおいて仮定の話ですが、しかし近年では実証研究が整ってきた結果、効用逓減がおおむね当てはまっていることが分かってきています。

先の「新貿易理論」のような収穫逓増モデルにしても、これはこれまでにあった収穫逓減を覆す類の話ではなく、あくまでも「ある条件下においては、こういう場合もあるよ」と補強しているにすぎません。基本的には効用逓減が中心。そのような実証的な話を無視して話を進めるのはいささか滑稽であります。

そう近年、例えば行動経済学を引いて「人間の合理性の限界」を示したとし、経済学そのものを無効化するような話をよく見かけますが、本著が示している「効用逓減の間違い」の話は、それによく似たようなアムニージアックさがあります。

そして「行動経済学で経済学の限界が示された!」「不完全性定理で人間の理性が示された!」とか言っている人が残念なのと同様、効用逓減の話で経済学の全体を論破しようというのは、まあなんというかセルバンテスのドン・キホーテの世界のいるような気分でした。

「効用逓減の間違い」を元にしての「平等主義の間違い」にしても同じ。

これは解説の論駁においてくわしく書かれているため、詳述は省きたいのですが、確かにフランクファート氏式の「問題は格差ではなく貧困だ」というような話は理屈としてはわからなくはありません。

しかし、現実においては大概において訳者のいう通り貧困放置のレトリックとして用いられるわけで、このため、40ページもかけて論難解説が行われているのもよくわかります。

というわけで、読み終わった後では「何を今さら言っているのだろう」といった感じでした。

これらから、点数は10点満点中2点とさせていただきます。

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