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ベーシックインカムの実現性が高まってきた背景と、ここ最近実際に導入実験を行った8都市

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ベーシックインカムの実現性が高まった社会的背景の理由は?実際に実験を行った8都市とは?

イタリア・リヴォルノ

・ベーシックインカムの現実味が帯びている

▲BI導入の背景に「受けた教育期間による所得格差の拡大」「実学⇔非実学専攻者での所得格差の拡大」

就労や資産の有無にかかわらず、すべての個人に対して生活に最低限必要な所得を無条件に給付するという社会政策「ベーシックインカム(BI)」

数年前までは夢物語のように語られてきたこの構想ですが、最近では実現に向けより現実味が帯びてきています。

とはいえ、それは決して悦ばしい理由からではありません。

背景には格差社会の到来が、そしてその格差の主な要因である世におけるIT技術の進展から、それまで人間が担っていた単純労働が機械に奪われていることがあります(なお、格差社会化の第一要因が技術革新であることは、実証研究によりバチっと明らかになっています)。

また「人的資本」という概念がありますが、教育はその一側面において、”それを受けた人を、より複雑な仕事を可能にさせる”といったことがあります。

結果、現状の単純労働が減少した世界で起こるのは、受けた教育がより短い人の失業、ないし失業とまではいかなくても所得の減少です。

(すなわち、①:大卒⇔高卒間の所得格差の拡大

例えばその最たる国アメリカでは、1979年と比べ高校中退者の週給は20%下がり、その一方で大卒者の週給は20%上がりました。

・2009年のデータ。上から大卒、短大、高卒、高校中退者の週給の推移を示している

fact4

出典:Bureau of Labor Statistics, Charting the U.S. Labor Market in 2009

・大卒者に比べ、大卒以外の卒業生が何%週給を得ているか。上から短期大学、高校卒業、高校中退者

出典:economix.blogs.nytimes.com

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また最近では大卒者だからと言って安泰ではありません。近年言われているのは、「②:非実学専攻と実学専攻での格差の拡大」。

これは特に格差大国アメリカで顕著ですが、旧来の雇用形態が崩れ、アメリカ型になりつつある日本でも同様の傾向にあることは内閣府から報告されています。

・アメリカの大学専攻別の高給料トップ15と低給料トップ15

高給料な専攻には石油工学、薬学、各種エンジニア、IT系などいわゆるSTEM(実学系理工学分野)専攻が並び、一方で低給料な専攻には人文社会芸術系専攻が並ぶ…。

トップ15

出典:cnn.com

ワースト15

出典:cnn.com

・ベーシックインカムのメリットとデメリット

そんな現状により、ここ最近、にわかに世界各国で検討され始めたのが「ベーシックインカム」

これには以下のようなメリットとデメリットが存在します。

メリット

①:全国民に毎月一定額を支給することによる貧困対策。加えて貧困の中で自分の存在に苦しむ人びとの実存の回復にも

②:世帯ではなく個人に対して配るため、家族が多ければ多いほど収入アップ

⇒少子化対策に

③:社会保障制度をベーシックインカムだけのシンプルな制度にすることで、手続きにかかわる無駄な人員(公務員)を省くことができ、行政のスリム化とコストダウン化が図れる

④:導入により人々が職を求めて都会に住む必要がなくなり地方への定住者が増加。ひいては地方活性化につながる

デメリット

①:財源

②:勤労意欲の減退

③:働かなくてもよいことによる、社会性の欠如と生きがいの喪失

④:「食い扶持」の発生により、労働者が雇用者から解雇されやすくなる危険性

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・ここ最近での、世界各国8都市のベーシックインカムの取り組み

以下に紹介するのは、ここ最近おいてベーシックインカムの導入に向けた取り組みをおこなった地域です(一部計画中)。

・リヴォルノ(イタリア);2016-2017年

イタリア沿岸の都市リヴォルノでは、2016年6月から6ヶ月間、人口15万人の市民のうち最も貧しい100世帯に対して、毎月537ドル(約6万3000円)のBIを提供するプログラムが導入されました。

フィリッポ・ノガリーニ市長は、今後もBIプログラム提供を継続し、2017年からは更に100世帯追加の規模拡大を行うと発表しています。

リヴォルノで試験的に行われているこのBIプログラムは、人口に対する規模が小さいとの批判やBI制度自体への反対意見が多くあるものの、他都市のラグーザやナポリでも試験プログラムの導入が検討されており、イタリア国民の関心が高いことがうかがえます。

・フィンランド;2017年

フィンランドで国家レベルでは欧州初のユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)の実効性をテストするため、2017年1月1日より2年間、国内で無作為に選出された2000人の失業者を対象に、月に560ユーロ (約6万8000円) を支払うBIプログラムが開始されています。

政府はこのUBIの導入による失業率の低下への影響に着目し、社会福祉への新たな可能性を見出す意図を示しました。

現在、欧州では社会保障を受けている失業者が社会保障受給継続のため、再就業を避けてしまう問題が起きていますが、しかしUBIにおいては就業による打ち切りは行わないため、このような失業者の不安を取り除き、就業率の上昇に貢献できるかにも注目が集まっています。

・ナミビア共和国(アフリカ南西部);2008~2009年

ナミビアのOtjivero-Omitara村は、首都から150km離れた場所に位置し、飢餓と貧困が蔓延した地域で、犯罪率の高い村でした。

この村でもBI実験プログラムが行われ、2008年~2009年の2年間において、60歳以下の住民930人に対し毎月100ナミビアドルが支給されています。

結果は犯罪率が42%減少、貧困世帯の減少、就学率増加、自営業の増加、村民同士の交流が深まるなど様々な効果があらわれました。

この実験によってのBIの必要性が確実視され、プログラム終了後も継続してBI支給は続けられました。が、2013年に資金不足に陥り、現在BI定期支給は行われていません。

結局BI導入の最大の懸念点である、資金不足の問題に直面したことになります。

・ユトレヒト(オランダ) :2016年1月より

オランダのユトレヒトではBIの効果とその働きを実証するため、政府とユトレヒト大学が共同で遂行する大規模な実験が2016年1月より、オランダの第4都市ユトレヒトでも行われています。

対象は300人の生活保護受給者で、月額1000ユーロ(約12万円)、妻帯者や妻子持がある者には約1450ドル(約18万円)を毎月無償で給付するというもの。

やはりBI受給によって変化する就労状況に関心が高いため、300人の対象者を就労状況別に3つのグループに分け、それぞれの生活の変化の検証が行われています。

・マニトバ州ドーファン(カナダ) ;1974~1979年までの5年間

1974~1979年までの5年間、カナダのマニトバ州ドーファンで「MINCOME」と呼ばれるBI実証実験が行われました。

この実験ではドーファン住民全員が対象となり、定期的にBIを受給することによって、住民の生活の変化を調査するというものでした。

実験結果をまとめた本『The town with no poverty(貧困のない町)』での記述によれば、BIの導入がドーファンの町から貧困をなくし、多くの問題を緩和することにつながったと結論付けられています。

実際に就業時間の短縮や、学習時間の増加、メンタルベルス医療施設への通院減少などの効果も表れたようです。

・オンタリオ(カナダ);計画中

またカナダのオンタリオでは、現在MINCOME実験の再現が計画され、すでに1900万ドル(約21.3億円)の予算を確保済みだとの報告がされています。

・カルフォルニア州 オークランド (アメリカ);2017年開始予定

アメリカではシリコンヴァレーのベンチャーキャピタル・Yコンビネーターによって、BIの社会実験が計画されています。

2017年から開始予定で、BI受給対象者30~50人が月額約1,500~2,000ドルを支給するのに対し、BIの支給を全く受けない同規模の対象者との比較によって検証実験が行われる予定。

Yコンビネーターの会長であるサム・アルトマンは、「テクノロジーが仕事を奪うほど、ユニバーサル・ベーシックインカムの必要性が高まる」と主張し、このBIプロジェクトによって失業者や貧困層を、適切な方法で支援したい考えを発表しています。

・ベルリン:2014年7月から

ドイツのベルリンでは、クラウドファンディングプロジェクト「Mein Grundeinkommen(マイ ベーシックインカム)」が2014年7月から開始され、現在も実施中です。

これはクラウドファンディングで資金を集め、1年分の資金(1万2000ユーロ;およそ144万円)が集まるたびに当選者を決めるというもの。

これまでに10数名の幸運な人物がプロジェクトに参加しました。このプロジェクトに当たった場合、当選者は月1000ユーロ(約12万円)が1年間支給されます。

少額ではないが決して高額ではない、絶妙な額が支給されるのがBIの特徴ですが、このプロジェクトでもそれは同じで、結果、当選者のほとんどはそれまで就いていた仕事を続けるといいます。

・ケニア:2017年11月から壮大なスケールのBI実験

ケニアでは2017年の11月より、NPO団体「GiveDirectly」によって、同団体曰く「人類史上最大のユニバーサルベーシックインカム実験」が開始されています。

この実験では、まずクラウドファンディングにより資金を集めます。

そしてその資金を3グループに分けられた200村に対し、40村には毎日0.75ドル/月22.50ドルのBIが12年間支給。同様に80の異なる村に2年間同じ金額が、そして残る80村には2年分相当額がまとめて支給される内容。

参加者は16,000人にわたり、実施期間においても対象数においてもかなりスケールの大きな実験となっています。

医療分野での臨床試験(投薬試験など)において用いられてきた試験法である無作為対照試験(RCT)を用いることで、よりエビデンスレベルの高い(信頼性の高い)社会実験を行うこととなっています。

ケニアで「史上最大」のベーシックインカム実験が開始。フィンランドなど、増えるRCTによる社会実験  …

参考文献

Bureau of Labor Statistics, Charting the U.S. Labor Market in 2009

CNN.com ”Top 10 highest/lowest-paying college majors”

The New York Times ”The Value of College”

・各都市のBI状況の参考ページ

リヴォルノ

BIEN ”ITALY: Basic Income Pilot Launched in Italian Coastal City

ナミビア

weforum ”Why we should all have a basic income | World Economic Forum

ユトレヒト、ドーファン

Quartz ”A Dutch city is giving money away to test the “basic income” theory

CNN.co.jp 「ベーシックインカムを試験導入、2千人対象 フィンランド」2017年1月3日

ベルリン

dw.com ”Free money – Germany’s basic income lottery

ケニア

givedirectly.org/basic-income

オークランド

QUARTZ ”Y Combinator is running a basic income experiment with 100 Oakland families

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