【論点まとめ】ベーシックインカム:特徴と導入の社会背景・メリットデメリット・生活保護との違い・実施された10都市など

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【論点まとめ】ベーシックインカム:特徴と導入の背景・メリットデメリット・生活保護との違い・社会実験が行われた10都市など

昨今何かと話題の、「ベーシック・インカム」について紹介するページです。

・2017年から、国家レベルでベーシックインカムの実験に乗り出したフィンランド

・そもそもベーシックインカムとは?その特徴と、生活保護や現物支給との違い

・ベーシックインカムの特徴と、「生活保護」やアメリカなどでおこなわれる「現物給付」との違い

①:生活保護や現物支給と同じ点

  • 毎月・毎週など、定期的に支払が行われる
  • 国家や地方自治体など、政治的共同体によって支払われる

②:現物支給とのちがい

  • サービスやクーポンなどの「現物」ではなく、「金銭」で与えられる

➾現物支給の性格が強い、アメリカの「フードスタンプ」や「WIC」と異なる点

③:生活保護との違い

  • 支払われる金額は、皆同じ。一律に毎月10万円程度(額は実施自治体ごとに微妙に異なる)
  • 「働ける能力」や「所得・資産」「お金を稼げる力」などは問われることなしに、「個人」に対して支払われる

➾はたらける能力や所得、資産を役所によって審査され、「世帯(家族単位)」で支払われる「生活保護」と異なる

参考:

アメリカの低所得者向け支援制度

制度 目的 予算
フードスタンプ 食料品購入の補助 718億ドル
婦人・乳児・子供のための特別栄養補給プログラム ミルクなど乳幼児向けの食料品購入補助 67億ドル
学校昼食プログラム 昼食の無料もしくは低額提供 97億ドル
住宅選択バウチャー 家賃補助 181.9億ドル
低所得者向け医療保険(メディケイド) 医療保険 4014億ドル

出典:The Capital Tribune Japan「米国は本当に低福祉の国なのか?

・ベーシックインカム (BI) のメリットとデメリット

~なぜ最近BIが注目を浴びているのか~

気になるベーシックインカムのメリットとデメリットですが、大きくまとめると次のようなものがあります。

・ベーシックインカムのメリット9つと、支持される背景

【貧困対策として】

①:全国民に毎月一定の額を支給することでの貧困対策

現在、IT化など技術革新やグローバル化の進展により、「中産階級の賃金低下・没落」と「機械による人間の雇用の減少とはく奪」のダブルパンチが起きており、高スキルを持つ人材とそうでない人材の賃金格差が開いている。それへの対策

[賃金格差拡大の背景]

・1:IT化・AI化による産業構造の変化

IT化、オートメーション化は、それまで人手がかかっていた多くの仕事を機械化させる。結果、

  • IT化・オートメーション化されない一部の高スキル職業と、
  • IT化されない若しくはIT化するより人間が行うほうが低コスト職業

に職業が二分され、一部の高所得者と多くの低所得者が出現することになる。

(高スキル職業…STEM(理系実学)系博士号※1取得者、医師など「需要が高く、それでいて専門性を有する=代わりが効かない」分野の職業)

これは社会科学の分野では一般的に、技術(スキル)偏向型技術進歩 (SBTC, skill biased technological change)と呼ばれる。

・関連ページ:技術(スキル)偏向型技術進歩について

日本の格差拡大は「技術偏向性(skill-biased)」によるものか 1.70年代以降の世界的な格差の拡大 1970年...

IT化の影響の例1:日本の自動車工の給料はここ20年で30%ほど減った。これはIT化によるロボットの導入で、高スキルが必要な職業ではなくなってきた面と、そもそもロボット化により労働需要が減ったからである

例2:工場労働を多く排出していた高卒者の求人は、1990年からの20年で8分の1に減った

例3:過去40年にわたり、アメリカの中位所得(下からちょうど半分の人の所得)は下がる一方で、一人当たりGDPは伸びている⇒これはまた、経済成長が個人の豊かさにつながらないことを含意

(※1:日本では雇用慣行的に博士号が敬遠されるため、修士号。また、ただ高等教育年数の実証研究をまとめた『検証・学歴の効用』という教育学の本によれば、どのような学問分野でも、受けた教育年数の多寡は基本的に人的資本(お金を稼ぐ能力)の形成につながるという)

図1:大卒者に比べ、大卒以外の卒業生が何%週給を得ているか。上から短期大学、高校卒業、高校中退者

出典:economix.blogs.nytimes.com

図2:2009年のデータ。上から大卒、短大、高卒、高校中退者の週給の推移

fact4

出典:Bureau of Labor Statistics, Charting the U.S. Labor Market in 2009

・スキル偏向型技術進歩についての関連ページ

日本の格差拡大は「技術偏向性(skill-biased)」によるものか 1.70年代以降の世界的な格差の拡大 1970年...

・2:グローバル化

テレビや文化人が良く言っている、おなじみ「グローバル化の弊害」。

一般的な貿易理論、ヘクシャーオリーン・モデルにおける「ストルパー=サミュエルソン定理」が意味するところによれば、

  • 貿易によって、先進国では「高学歴・高技能労働者」と「低学歴・低技能労働者」の賃金が拡大する

くわえて低技能労働者においては、発展途上国の労働者との間でいわゆる「低賃金への競争」が起こる。

例1:最近のアメリカ大統領選でもラスト・ベルトでの製造業の雇用減少が話題になったが、中国が2001年にWTOに加盟し、自由経済市場に本格的に参入したことで、アメリカでは320万人が職を失ったと推測されている。

図3:色の濃いところほど、中国のWTO加盟によりアメリカで職が失われた地域

wto_us_jobs

出典:epi.org

・関連ページ:

アメリカ全土やラストベルト地域での製造業の苦境が分かる13のデータ ポピュリズムの権化たるような人物が当選してしまった2016年アメリ...

・3:労働組合の力の低下

これは先ほどの「1:IT化・AI化」「2:グローバル化」の相乗効果で起こる。

  • IT化では人間の労働力の重要性が減じる
  • グローバル化では労働のライバルが増え、結果資本家にとって目の前の労働力が力を持ちにくくなる(「代わりはいくらでもいる、の世界」)

結果、労働組合の相対的な重要性が減少し、資本家がより多くを手に入れることになる。

現に労働分配率(人件費の占める割合)は、日本においても21世紀に入ってドンドン減少している。

【資本主義の中での新しい生き方の模索の一つとして】

②:すべての人間に一定程度の金額を与えることで、資本主義社会の中で値踏みされる人々の「実存と尊厳の回復」が図られる

という見方。

元々ベーシック・インカムの源流の一つには、家事という無賃労働の中で自身の尊厳について悩み「家事労働に賃金を」をスローガンとした専業主婦のフェミニズム運動・実存回復運動があった。

【現状の社会保障制度や生活保護の、制度としての欠陥から】

③:現状の社会保障制度は、高度経済成長時代の経済状況・家族状況に当てはめられて作られた

現状の社会保障制度においては、「男性=正社員・女性=正社員男性の妻で専業主婦・家族全体で福祉を受ける家族主義」の下、企業を中心とした社会保障となっており、そこからあぶれてしまった人間はまともな生活(健康で文化的な最低限度の生活)を営めないことが多い。

独身・個人主義化と非正規雇用化が進む現状においてはなおのこと、また一度非正規雇用になった人間は、その状態から抜け出すのが難しいとの報告もされており、特に国による社会保障が脆弱な日本の場合、ベーシックインカムに期待する声が多いのは理解できるところである。

④:生活保護を受ける資格があるのに、スティグマ(よごれ)を気にして貧困状態に陥ってしまう人が多数いる

現状の生活保護制度は、申請し受給する仕組みなため「生活保護をもらう人=人生の負け組」なる意識が生まれやすい。そのためプライドや世間の目を気にして、受給する資格があるのに申請しない人も多い。

結果、生活保護の捕捉率(もらえる資格がある人が実際にもらっている率)は20%前後と低いものとなっており、極度の貧困状態を受け入れてしまっている人が多く存在する。

(編注:筆者が札幌でホームレス支援活動をしていた時、上記の理由からホームレスを選択する方を数多く見かけました。)

⑤:労働へのインセンティブ設計の観点

現在の生活保護制度では、働くとその分生活保護費が減るので、働くことへのインセンティブ(動機づけ)が弱い。そのため一旦生活保護を受けると、そのまま受け続けようとする人が多い。

一方BIでは、働いてもBIのお金が減るということがないので、働けば働くほど総収入が増える

【現在の労働に対する疑問から】

⑥:現状の労働形態に対する疑義から

哲学者のネグリなどは、現在の労働が「労働と非労働の区分があいまい」だとして、労働ではなく、人間という存在そのものに給料を支払うべきだとしている。

【行政のスリム化とコストダウンになる】

⑦:行政のスリム化とコストダウン化

社会保障制度をベーシックインカムだけのシンプルな制度にすることで、社会保障への手続きにかかわる無駄な人員(公務員)を省くことができ、スリム化とコストダウン化が図れる

【少子化対策・地方活性化】

⑧:少子化対策

世帯単位(家族単位)ではなく個人に対して配るため、家族が多ければ多いほど収入アップになることでの子作り喚起

例:

生活保護の場合⇒独身世帯でおよそ月8万円、4人家族でおよそ月23万円ほど(東京都の場合)。

ベーシックインカム⇒独身世帯で月11万円、4人家族で月44万円。

家族人員の数が増えるに従って収入が倍々で増えるため、出産数の増加が見込まれ、結果少子化対策になる。

⑨:地方活性化

導入により人々が職を求めて都会に住む必要がなくなるため、地方への定住者が増える。ひいては地方活性化につながる

・ベーシック・インカムのデメリットとその反論

【主なデメリット】

①:財源の不安

②:勤労意欲の減退

③:働かなくてもよいことによる生きがいの喪失

④:「食い扶持」の発生による、雇用者から解雇されやすくなる危険性

【反論】

「①財源の不安」に対しては、例えば日本の代表的なBI論者、福祉政策学者の小沢修司氏は独自の試算から5万円程度なら日本でも可能とする。

また②③の「勤労意欲の減退とそれによる生きがいの喪失」に対しては、先ほどの小沢氏、また海外の代表的なBI論者フィリップ・ヴァン・パレース氏、ゲッツ・ヴェルナー氏らはボランティアを例に出し、「賃労働だけが勤労意欲や生きがいを生み出すものではない」と主張。

また論者は「そもそもベーシック・インカムは働くことを抑制していない」とも付け加える。確かに月10万円程度では、いやでも働かなくてもならないように見える。

・ベーシックインカムの実験を行った都市

古くは1970年代から社会実験が行われてきたベーシックインカム(BI)ですが、近年注目度に比例してBIへの社会的実験を行う都市が増えています。

最近のBI実験の特徴としては、

  • ①:統計学の社会分野への浸透により、あたかも投薬試験のように実験群(BIを与えるグループ)と対照群(BIを与えないグループ)とに分けて行われるようになった(これにより、より緻密な分析結果が得られる)
  • ②:クラウドファウンディングの浸透で資金調達の難易度が下がったことにより、政府など公共機関だけでなく民間でも行われるようになった

といったことがあげられます。

(各都市の動画はその街の雰囲気を伝えるために埋め込んだだけで、文章内容とは特に関係ありません)

・マニトバ州ドーファン(カナダ) ;1974~1979年までの5年間/公的

 1974~1979年までの5年間、カナダのマニトバ州ドーファンで「MINCOME」と呼ばれるBI実証実験が行われた。

この実験ではドーファン住民全員が対象となり、定期的にBIを受給することによって、住民の生活の変化を調査するというものだった。

実験結果をまとめた本『The town with no poverty (貧困のない町)』によれば、BIの導入がドーファンの町から貧困をなくし、多くの問題を緩和することにつながったと結論付けられている。くわえて就業時間の短縮や、学習時間の増加、メンタルヘルス医療施設への通院の減少などの効果も表れたとのこと。

・アメリカ・シアトル州デンバー;1970-1978

アメリカシアトル州のデンバーにおいては、1970-1978の期間において、ベーシックインカムに近い発想の「負の所得税」が実施された。

この「負の所得税」は、フリードマンなど右派経済学者によるアイデアが元になっており、ベーシックインカムのような発想が右派の人間からも考え付かれたという点で、特筆に値します。

・ナミビア共和国(アフリカ南西部);2008~2009年/公的

 ナミビアのOtjivero-Omitara村は、首都から150km離れた場所に位置し、飢餓と貧困が蔓延した地域で、犯罪率の高い村だった。

この村でもBI実験プログラムが行われ、2008年~2009年の2年間60歳以下の住民930人に対し、毎月100ナミビアドルが支給された。

結果として、犯罪率が42%減少、貧困世帯の減少、就学率増加、自営業の増加、村民同士の交流が深まるなど様々な効果が確認できたという。

同国ではこの実験によってのBIの必要性が確認視され、プログラム終了後も継続してBI支給が続けられた。しかし2013年に資金不足に陥り、現在はBIの定期支給は行われていない

・ユトレヒト(オランダ) :2016年1月より/公的

 オランダのユトレヒトではBIの効果とその働きを実証するため、政府とユトレヒト大学が共同で遂行する大規模な実験が2016年1月より、オランダの第4都市ユトレヒトで行われている。

対象は300人の生活保護受給者で、月額1000ユーロ(約12万円)を、妻帯者や妻子持がある者には約1450ドル(約18万円)を毎月無償で給付するというもの。

BI受給による就労状況の変化を確認するため、対象者を就労状況別に3つのグループに分けられ、それぞれのグループでの検証が行われている。

・リヴォルノ(イタリア);2016-2017年/公的

イタリア沿岸の都市リヴォルノでは、2016年6月から6ヶ月間、人口15万人の市民のうち最も貧しい100世帯に対して、毎月537ドル(約6万3000円)のBIを提供するプログラムが導入された。

すでにフィリッポ・ノガリーニ市長は、今後もBIプログラム提供を継続し、2017年からは更に100世帯追加の規模拡大を行うと発表している。

・フィンランド;2017年/公的

 https://youtu.be/ZXVU3Lbgt9Y

フィンランドでは、ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)の実効性をテストするため、2017年1月1日より2年間、国内で無作為に選出された2000人の失業者を対象に、月に560ユーロ (約6万8000円) を支払うBIプログラムが実施中。これは国家レベルとしてヨーロッパ初。

政府はこのUBI実験の目的を「社会福祉への新たな可能性を見出すことにある」としている。

欧州では現在、社会保障を受ける失業者が、社会保障受給を継続するため再就職を避けてしまうという問題が発生している。UBIでは就業時による受給の打ち切りがないことから、就業率の上昇に貢献できるかが注目されている。

 ・オンタリオ(カナダ);計画中/公的

 同じくカナダのオンタリオでは、現在MINCOME実験の再現が計画され、すでに1900万ドル(約21.3億円)の予算を確保済みとのこと。

・カルフォルニア州 オークランド (アメリカ);2017年開始予定/民間

 アメリカではシリコンヴァレーのベンチャーキャピタル・Yコンビネーターによって、カルフォルニア州・オークランドでの社会実験が計画されている。

これは2017年から開始予定であり、対象者30~50人は月額約1,500~2,000ドルを受給する。全く受給しないい同規模の対象者との比較によって検証実験が行われる。

Yコンビネーターの会長であるサム・アルトマンは、「テクノロジーが仕事を奪うほど、ユニバーサル・ベーシックインカムの必要性が高まる」としている。

・ベルリン:2014年7月から/民間

 ドイツのベルリンでは、クラウドファンディングプロジェクト「Mein Grundeinkommen(マイ ベーシックインカム)」が2014年7月から開始され、現在も実施中。

これはクラウドファンディングで資金を集め、1年分の資金(1万2000ユーロ;およそ144万円)が集まるたびに当選者を決めるという方式。

これまでに、10数名の幸運な人物がプロジェクトに参加したとのこと。当選者は月1000ユーロ(約12万円)が1年間支給される。

勤労意欲の低下が叫ばれるのがBIの常だが、この実験では12万円という額もあり、当選者のほとんどはそれまで就いていた仕事を続けたという。

・ケニア:2016年10月から12年間/民間

ケニアでは2016年の10月より、慈善団体「GiveDirectly」によって、大規模なBI実験が開始された。この実験は、クラウドファンディングで資金を集め、それを約40の村の住民が月々22.5ドル、12年間受け取るという長期的なプログラム。

比較対象として、約80の村は受給期間を2年間に短縮し、また他の100の村はBI受給を全く受けないなどの様々な条件をグループごとに分けての無作為対照試験を行っている。

このプロジェクトに対しては、長期にわたる大規模な実験であることから、信憑性のあるデータが抽出できると、期待の声があがっているという。

参考文献

Bureau of Labor Statistics, Charting the U.S. Labor Market in 2009

CNN.com ”Top 10 highest/lowest-paying college majors”

The New York Times ”The Value of College”

BIEN ”ITALY: Basic Income Pilot Launched in Italian Coastal City”

Economic Policy Institute ”U.S.-China Trade Deficits Cost Millions of Jobs, with Losses in Every State and in All but One Congressional District”

weforum ”Why we should all have a basic income | World Economic Forum”

Quartz ”A Dutch city is giving money away to test the “basic income” theory”

CNN.co.jp 「ベーシックインカムを試験導入、2千人対象 フィンランド」2017年1月3日

dw.com ”Free money – Germany’s basic income lottery”

QUARTZ ”Y Combinator is running a basic income experiment with 100 Oakland families”

INDEPENDENT “Finland plans to give every citizen 800 euros a month and scrap benefits”

The Capital Tribune Japan「米国は本当に低福祉の国なのか?」

山森 亮(2009)『ベーシック・インカム入門』光文社

ゲッツ・W. ヴェルナー(2007)『ベーシック・インカム―基本所得のある社会へ』現代書館

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