書評『思考のトラップ』9点。認知科学で示す”ヒトの愚かさのすすめ”

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書評『思考のトラップ』9点。認知科学で示す”ヒトの愚かさのすすめ”

・書影

【この本について】

原題は” You are not smart(あなたは賢くはない)”。

まあ人間、生きていると身をもってして自らの愚かさを知覚するものですが、本書は認知科学の知見を活かし、これでもかこれでもかと人間の愚かな側面を示してくれます。その数、実に48。

ポップで引き込まれる文章と好奇心をそそられる内容、豊富な引用などにより、読んでいて実にわくわくするし知的好奇心を満たしてくれる1冊です。元々はブログだったものを書籍化したということで文体も読みやすく、全世界でベストセラーになったというのも(ただし知的なものが絡むと途端に本が売れなくなる日本では売れなかったらしい)、実に納得。

【もくじ】

0:はじめにー人の性

1:プライミング効果

2:作話

3:確証バイアス

4:あと知恵バイアス

5:テキサスの名射手の誤謬

6:先延ばし

7:正常性バイアス

8:内観

9:利用可能性ヒューリスティック

10:傍観者効果

11:ダニング=クルーガー効果

12:アポフェニア

13:ブランド忠誠心

14:権威に訴える論証

15:無知に訴える論証

16:藁人形論法

17:人身攻撃の誤謬

18:公正世界仮説

19:公共財供給ゲーム

20:最後通牒ゲーム

21:主観的評価

22:カルトの洗脳

23:集団思考

24:超正常刺激

25:感情ヒューリスティック

26:ダンバー数

27:魂を売る(セル・アウト;哲学者ジョセフ・ヒースの概念)

28:自己奉仕バイアス

29:スポットライト効果

30:第3者効果

ほか人間の思考や認知機構の誤謬を、総数48にわたって紹介

【内容の解説】

・学習性無力感と「責任感」や「選択権」の有用性

本書から学べる箇所は多いでしょう。それは認知的誤謬事象そのものの解説だけでなく、関連するトピックの事柄が豊富に出てくるため。

例えばカズオ・イシグロ『わたしを離さないで』を思い起こすような「学習性無力感」の説明においては、無力感そのものに解説に加え、次のようなことが記されています。

・学習性無力感

ウソ:苦しい状況に置かれると、人はどんなことをしてでも逃れようとするものだ

ホント:自分ではそうすることもできないと感じると、どんな状況になってでもあきらめて受け入れてしまう

(中略)

1976年、エレン・ランガーとジュディス・ローディンが行った研究によると、同じ老人ホームでも、従順さや受け身の姿勢が奨励され、どんな気まぐれにも対応してもらえるところでは、入所者は気力や体力も急激に低下する。しかし、責任や選択権が与えられているところでは、健康で活動的な状態を保つことができる。

この研究は刑務所でも行われた。するとやはり、備品を動かしたりテレビのチャンネル選びを許されるだけでも健康問題が起こりにくくなり、また騒動も少なくなった。ホームレスのシェルターでも、自分のベッドも食べるものも選べないところでは、職やアパートを探そうという気力が起こりにくくなる。

簡単なことで成功を経験すると、難しい仕事もできそうな気がしてくるのだ。逆に小さなことで成功を経験できないと、すべてが難しく見えてくるわけである。

・「競争」が与えるメリット

そういえば、鈴村興太郎という数理社会科学者は「競争」というもの美点を指して「競争という手続き」が人々に与える、その「機会」や「自由」、「選択肢」を強調していました。上の話と共通するところがあります。

また「小さな成功の積み重ねが重要」なることは、近年隆盛を極めつつあり、今年2017年のノーベル経済学賞もこの分野(リチャード・セイラー)が受賞した行動経済学、ないしその影響を受けた自己啓発本がよく喧伝していることであります。

・身体化された認知、アポフェニア、超正常刺激

そのほかにも人間の知的好奇心をくすぐるトピックがさまざまに並んでおり、読んでいて飽きません。

38 身体化された認知

人は自分の身体的経験を言葉に翻訳し、その言葉を信じる。明るい色の服を着た人を見ると、親しみやすく賢いー頭が良いと思う。

ゆっくり話す人はあまり頭がよくないー鈍いと思う

40 注意

人は、目から入ってくる全情報のごく一部にしか気づいていない。意識によって処理され、記憶される情報はそれよりさらに少ない。

12 アポフェニア

偶然は生きていれば必ず出くわすもので、できすぎと思える偶然でもそれは同じである。意味があるとしたら、それは人の心が与えるからだ。

(…中略)

俳優たちは高い出演料をもらって迫真の演技で芝居をし、そして人はそれを見るのが大好きだ。人は生まれつき、映像やストーリーでものを考えるからだ。

2 作話

自分がなぜそうしたのか、人は大抵わかっていない。

そこで自分の決断や感情や過去の体験を説明するために架空の物語を作り出し、しかも自分でそれに気づかない。

24 超正常刺激

配偶者選択においては、メスオスは大抵2つの陣営に分かれる。一方は子を育てなくてはならないから、そうしょっちゅう繁殖はできない。もう一方は、子を育てる負担がほとんどかからず、何度でも繁殖ができる。

こういう状況では、卵子を持つ側なら繁殖力や健康、精子を持つ側なら地位や権力を古代に強調すれば超正常刺激になりうる。

(中略)

男性が異性の肉体的魅力を一瞬で判断するとき、なにより重視するらしいポイントが一つある。それは、ヒップとウエストの比率だ。世界中で行われた数々の調査の結果、その文化で女性の体型がどのように見なされているかにかかわりなく、ウエストがヒップに対して70パーセントぐらいの体型が常に好まれていることが分かった。

バスによると、ヒップとウエストの比が0.76から0.80の範囲かどうかということと、その女性の健康(繁殖力だけでなくすべての面で)には相関関係がある。

33 同調

ちょっとした権威や社会的圧力があれば人を従わせるのは簡単だ。同調は生存本能だからである。

(中略)

西欧文化圏では特にそうだが、たいていの人は自分のことを、他人とは異なる独立独歩の人間だと考えたがる。たぶんあなたもそういう人だろう。自分の個性を大事にし、人に迎合せず、独自の趣味嗜好を持っていると思っている。しかし、よく考えてみよう。どこまで人と迎合せずにいられるだろうか。

(中略)

心理学者のノーム・シュパンサーがブログで説明している通り、人は気づかないうちに同調行動をとっていることが多い。同調は人間のホームベースであり、デフォルトモードなのだ。

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