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所得上位5%な「年収800~900万円超の会社員」への増税の妥当性。日本の中高所得層は海外他国に比べ所得税負担が低い

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所得上位5%な「年収800~900万円超の会社員」への増税は適切か?所得課税と再分配、中間層負担

「年収800万円~900万円超の会社員は増税」というニュースが話題になっていました。以下はNHKニュースウェブより。

来年度の税制改正の焦点になっている所得税の負担を減らす「控除」の見直しで、政府は会社員などを対象にした「給与所得控除」について、控除の上限額を縮小して年収800万円から900万円を超える人が、今より増税になる方向で与党との調整に入りました。

(・・・中略)例えば、年収800万円で頭打ちとなる場合は、年収850万円でいまよりも年1万5000円程度、900万円では年3万円程度、増税になります。

ただ22歳以下の子どもがいる人は増税にならないようにする方針です。

出典:NHK News Web 11月27日

このニュースに関して、論点を整理してみます。

①:日本は他国に比べて個人所得課税が低く、再分配が機能していない

財租税や社会保障負担などの負担率を示す国民負担率(対国民所得比)の各国比較を見ると、日本は医療保険や年金など社会保障負担率が高い(高齢化に伴い、年々高くなっている)一方で、所得税の率が低く、国民の最低限の生活を所得再分配で行なっていこうとはしない国だということが分かります。

出所:財務省

各国のグラフを眺めると、それぞれの国における社会感が透けて見えます。

社会保障負担

=医療や年金など社会保障のためのお金を互いに出し合う

所得税

=国民の最低限の生活を、再分配で保証する

日本
アメリカ
フランス
イギリス
昔のスウェーデン

日本においては所得税の負担率が低いため、再分配機能が機能していません(下図1)。そのため大人が一人のみの家庭の貧困率は50%以上とOECD(主要先進国)内でトップレベル(下図2)。そして子供の貧困率も16%以上と、これまたOECDトップレベルとなっています(下図3)。

図1.

income_distribution

出典:東洋経済オンライン

図2.

図3.

・用語解説:

「貧困線」・・・等価可処分所得の中央値の半分の額。最小限度の生活水準賭されている。相対的貧困線とも。額としては122万円以下

「子どもの貧困率」・・・子ども(17歳以下の者)全体に占める、等価可処分所得が貧困線に満たない子どもの割合

「大人が一人のみの家庭」・・・名称からシングルマザーやシングルファーザーの家庭を想像しがちであり、そう扱っている新聞報道もあるのだが、実際はそれらに加え18歳以上の兄弟との同居家庭や祖父母のどちらかとの同居家庭も含む

2060年、このままでは先進諸国にアメリカ並みの格差が押し寄せる ヨーロッパ諸国を中心に日・米含め34 ヶ国の先進国が加盟する国際機関...

②:日本では年収580万円でトップ10%、1270万円でトップ1%になる

例えば年収トップ1%となると大金持ちの人を予想しそうなものですが、一橋大学・森口千晶教授の研究によれば、年収750万円以上で所得トップ5%、同1270万円で所得トップ1%に位置します

日本では、年収580万円あると所得トップ10%になる!

・日本における所得階層別のシェア

所得上位0.01% 8000万円以上
上位0.1% 3200万円以上
上位1% 1270万円以上
上位5% 750万円以上
上位10% 580万円以上

出典:

大竹文雄、森口千晶『なぜ日本で格差をめぐる議論が盛り上がるのか』「中央公論」2015年4月号

・日本で所得トップ10%とは、年収580万円以上

・同5%が年収750万円以上

・同1%が年収1270万円以上

・同0.1%は3200万円以上

・同上位0.01%は8000万円以上

これがアメリカの場合では、トップ1%は年収約35万ドル(およそ4000万円)以上、トップ10%は同10.5万ドル(およそ1200万円)、そしてトップ0.1%は333万ドル(およそ3億8000万円)。

日本において、いかに中流階級の人が多いのかということがわかります。

日本では年収580万円で所得トップ10%、750万円でトップ5%、1270万円でトップ1%になる 1.所得上位10%の得た収入...

③:中間層の所得税負担額が低い日本

加えて各国と比較してわかるのは、日本という国は「諸外国と比較して中間層の所得税が低く抑えられている」ということです。

給与収入階級別に個人所得課税負担額を国際比較すると、次の通り。下の図は単身のものですが、夫婦子2人、夫婦のみ、夫婦子1人の場合においても事情は変わりません。

(2016年1月現在、単位:万円)

ですから、仮に日本において貧困家庭の解消ないし格差社会の解消を目指すとなると、話として「中間層への所得課税強化」が出てくるようになるわけです。超大金持ちから所得税を取るのは当たり前としても、日本においては その超大金持ちがそれほど多くありません。何しろ、先ほども示した通り、「年収1270万円以上あれば所得トップ1%」になってしまうからです。

今回の「年収800万円~900万円会社員への課税強化」も、その方向性に沿うものと言えます。

④:求められるのは「自己責任型」か、「連帯型」か

中間層への課税強化となると多くの人にとって痛みを伴うこととなり、どれだけ事実を並べても反発を受けるのは想像に難くありません。ここまでくると、求められるのは価値やら未来へのビジョンへの問題になってきます。

すなわち、

①:個人主義を押し出し、貧困に苦しむ人のことは「自己責任」として片づけるか(アメリカ型)

②:同じ国へ住む人々の社会連帯意識から、貧困に苦しむ人に再分配して助けるか(大陸ヨーロッパ型)

のどちらを選択するかが、求められています。もちろん、そのどちらを選択しても、それはその国民の選択として尊重されるべきなのは言うまでもないところです。

歴史的なことを言えば、現在の社会保障の起源は戦争にあり、戦争で悲惨な目にあった同胞を助けるために生まれました。

それゆえ自国内が戦争の舞台となり、悲惨な目にあった人が数多く発生、それら人々が大衆の目にさらされ同情を買うことになったヨーロッパにおいては社会保障が整えられる一方で、(比較的)そうでない日本やアメリカでは社会保障が不十分といった状況となっています。

参考文献:

厚生労働省「国民生活基礎調査」2015年

財務省「租税負担率内訳の国際比較」2015年

財務省「給与収入階級別の個人所得課税負担額の国際比較」2016年

東洋経済オンライン「貧困層をより貧しくする日本の歪んだ所得再分配」2009年

大竹文雄、森口千晶『なぜ日本で格差をめぐる議論が盛り上がるのか』「中央公論」2015年4月号

NHK News Web 2017年11月27日

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