働き出してから判明する「求人詐欺」が横行中
【この記事のポイント】
・求人票と実際の労働形態が全く違う「求人詐欺」が増加中
・増加の背景には労働者不足と法摘発の無さが。近年では弁護士や社労者が入れ知恵をし、詐欺が見抜けにくくかつ言い逃れが出来るよう巧妙化されていることも要因
・対策法としては、録音、メモ、コピーなど関係事項を保存しておくこと。また労働者団体などへの相談も有効とのこと
ーーー
就活シーズン真っただ中ですが、これは実体験を交えて気を付けたい事例をご紹介。とはいえコレ、中々対策の取りようがないので、なんともしがたい話なんですが・・・。
・実際に僕が体験した「求人票詐欺」。5月の給与明細でわかる
僕が数年前、新卒入社した某社。求人票では「月給21万円」とうたっていました。が、これ実はカラクリがあって、「21万円」は残業代が含まれてのもの。
この「月給に残業代が元から入っている」ことが判明したのは、5月の給与明細を見てから。
勤務時間についても、求人通りということはほぼなく、ほとんどが7時から22時くらいまで。さらには「完全週休2日制」なる文言もありましたが、これもウソ。土日のどちらかが休みなら良い方、下手すると土日両日も仕事ということもありました。
とはいえ良く知られる通り、実のところこういう働き方は、日本社会全体で日常茶飯事ですから、それゆえ一層問題が悩ましいのですが。
結局のところ、激務に耐えかねて僕はその会社を1年間ほどで辞めることになります。
・最近頻発する「求人詐欺」。巧妙化するその特徴
・増加する「求人詐欺」。背景に人材不足と法摘発の無さ
先ほどの話には続きがあって、実は転職後の会社でも求人詐欺にあうのですが、それはさておき、近年、このような「求人詐欺」があちこちで頻発しているようです。
ハローワークの求人票の労働条件が実際と食い違うという相談が2014年度は約1万2千件に上り、前年度を3割上回ったことが厚生労働省のまとめで分かった。
このうち3分の1以上の4360件で、「求人票より低い賃金で働かされた」「始業時刻より早い出社を求められた」といった食い違いが実際に確認されたという。出典:「雇用の荒廃/「求人詐欺」の対策強化を」河北新報 2015年12月13日
求人詐欺が見られるようになったのは2010年以降のようですが、それにしても、なぜ近年横行することになったのか。
労働相談を行なうNPO法人、「POSSE(ポッセ)」の今野晴貴代表は、次のように述べています(著書『求人詐欺』、東洋経済などのインタビュー、荻上チキSession22でのインタビューなどを参照)。
①:近年の労働人口不足により、好条件をエサに人を集めようとして、1社が「求人詐欺」を行う。
②:「求人表を出した時と経営環境が変わり、雇用条件を変更せざるを得なくなった」などと言い逃れが出来てしまう。そのため法の取り締まりが行えない。
③:内定が決まったあと、契約する段階になって通知する。学生側は今更ほかの企業に変えられず、シブシブ契約する。契約書にサインさせたので、「双方同意の上で」という言い逃れができ、法の取り締まりが行えない。
④:「実際に雇ってみると、求人票の給与ほどは払えない能力の持ち主だとわかった」などと言い逃れが出来てしまい、法の取り締まりが行えない。
⑤:②~④により、法の取り締まりが行えないので、求人詐欺が横行する。
⑥:1社が”パッと見の求人内容が良い”求人詐欺を行うと、競争原理が働き、他の会社も引きずられて求人詐欺を行うようになる。
・法の抜け穴を知っている”プロ”が企業側にやり方を指南
実に巧妙によくできていますが、その背景には社労士や弁護士などのアドバイスがあるとのこと。そういえば先日、「社員をうつ病にさせてクビにする」方法をブログで書いていた社会保険労務士が話題になりました。
あのような類の、”法の抜け穴を知っている”「ブラック○○士」が企業側に指南することより、より一層求人票のウソを見抜けなくなっている状況が生まれているようです。
・「OB/OG訪問でのお話」は、話半分に聞いておいた方が良い
ここで少し話がそれますが、「OB/OG訪問」で聞く「仕事内容の話」がいかに役に立たないかについての話。
今年の就活では活動シーズンが短期化されたため、そもそもOB訪問というイベントが無いそうですが、それにしてもOB訪問での「仕事の話」「生きた情報」の話なんてものは、あんまり信用しないほうが良いように思われます。
僕も先述のブラック企業へ就活する際、OB訪問をして色々と話を伺ったのですが、今から思うと「求人票と実際の給与面が異なる」ことを筆頭に、会社のマイナス情報やらブラックな話というのは全くといってよいほど話してくれませんでした。やはりどうしても「社内の恥部」を外部の人間に露見させるのはためらってしまうものなのでしょうか。
多分そのOBの方も、自分と似たような「求人票詐欺」にあってたと思うんですけど。
まあもちろんサンプル数は少ないですし、自分のケースが特殊だっただけで、実際はちゃんと丁寧に社内のマイナス情報も話してくれるOB/OGの方もいるのかもしれません。
ただ、OB訪問というか「就職活動それ自体が企業の広告活動の一環」となっている現状を踏まえるに、キチンとマイナス面まで話してくれるOB/OGの方はそう多くないと思うんですけどね。企業側にマイナス面を伝えるメリットがないので。
・「求人詐欺」に遭わないための対策法、遭った場合の対策法チェックポイント
さてさきほどの今野氏は、「求人詐欺に遭わないための対策法」、もしくは「求人詐欺に遭った場合の対策法」として次の対策法を上げています。
【求人詐欺に遭わないための対策法】
・説明会で労働条件をメモする。できれば録音をする。
・契約書について「何の業務に対して何時間支払うか定めてあるか」をよく見る。契約書がおかしい場合はその旨を話し、一旦はサインを拒否する。このやり取りを録音しておくのが望ましい。
【求人詐欺に遭った場合の対策法】
・労働団体に加盟し、団体交渉をする
・POSSEなど労働者側の団体に相談する
裁判になった場合、最高で数百万円規模の額が請求できるそうです。そのほか、POSSEでは求人詐欺にあわないため、もしくはあってしまった場合の対処法を記した「しごとダイアリー2」なるものを販売しているとのことです。
・参考文献
今野 晴貴「求人詐欺 内定後の落とし穴」幻冬舎
「雇用の荒廃/「求人詐欺」の対策強化を」河北新報, 2015年12月13日
「「求人詐欺」は、なぜ野放しにされているのか 労働市場は悪質な詐欺によって機能不全に」東洋経済ONLINE, 2016年3月17日
「今野晴貴がレクチャー「新年度にご用心!”求人詐欺”対応マニュアル」TBSラジオ 荻上チキ・Session-22, 2016年3月31日