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『FAR CRY 5』を読み解く。本作が海外で早くも賛否両論を呼んでいるのはなぜか?アメリカで多大な影響力を持つ、キリスト教福音派との関連性

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『FAR CRY 5』を読み解く。本作が海外で早くも賛否両論を呼んでいるのはなぜか?アメリカで多大な影響力を持つ、キリスト教福音派との関連性

画像引用元:Wikipedia

赤い場所が舞台となるモンタナ州。モンタナ州はカナダとの国境沿いに位置する

・キービジュアルや舞台設定からうかがえる、『FARCRY 5』の元ネタ、アメリカの社会・文化背景

キービジュアル

参考:『FAR CRY 5』のストーリー

アメリカ北西部、カナダとの国境沿いに位置するモンタナ州。かつてネイティブアメリカン(旧称:インディアン)居住地だったこの州は、過去インディアンと白人との歴史的な抗争が繰り広げられたことで知られているが、今はのどかな地域として知られている。

そんなモンタナ州の街、ホープ郡の連邦保安官局で郡保安官代理を担う主人公だが、国家の崩壊から人びとを救うため選ばれたと称する新興宗教「エデンズ・ゲート」の指導者・ヨセフと対峙していくことになる…。

公開されたキービュアル等の情報から、『FARCRY 5』について考えることにしたい。

とはいえ、執筆時点においては公開情報がまだそれほど多くはなく、そのため推測が多くなってしまうのはあらかじめお断りしておきたい。

さてキービジュアルがレオナルド・ダ・ヴィンチの宗教画、『最後の晩餐』をモチーフとしていることが一目見てわかるように、本作においては、そこかしこに引用や元ネタを見て取ることができる。

レオナルド・ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』

参考:FAR CRY 5の登場人物

【主人公サイド】

主人公の仲間、または協力者になりうる人物

・主人公:架空の郡モンタナ州ホープ郡の連邦保安官局にて、郡保安官代理を務める

・ジェローム牧師:ヨセフら「エデンズ・ゲート」から迫害を受ける牧師

・マリア・メイ:父親を「エデンズ・ゲート」に殺されている

【新興宗教サイド】

・ヨセフ:新興宗教「エデンズ・ゲート」の指導者。名前はおそらく、旧約聖書において登場する、エジプトを飢饉から救った人物ヨセフが元ネタ

・ヤコブ:ヨセフの弟。同じくキリスト教でおなじみイエスの12使徒ヤコブが元ネタ

・ヨハネ:ヨセフの弟。同・イエスの12使徒ヨハネが元ネタ

・フェイス:”フェイス”は日本語で「信仰」の意。ヨセフとは片親が異なる姉妹

・キービジュアルに見える、アメリカで多大な影響力を持つ「キリスト教福音派」との関係

「現実世界」からの引用やメタファー、それは例えば、登場人物の名前にしてもそうだし、トム・クルーズも入信していることで知られる(色々と悪名高い)新興宗教「サイエントロジー」を思わせる色の教会にしてもそう。

加えてサイエントロジーのシンボルらしき、オブジェクトがデコレーションされているアメリカ国旗(星条旗)などといったもの登場している。

・青がモチーフの、サイエントロジーと同宗教のシンボルマーク

またキービジュアルで注目したいのが、描かれている人物たちだ。

イメージ中央部に陣取る彼らとその周辺にある「瓶ビール」「銃」「格子模様のフランネルシャツ」「伸ばし切った無精ヒゲ」。これは、ゲームが舞台とする北部の人のものというより、むしろアメリカ南部に住む「レッドネック」と呼ばれている人たちのそれに近い。

レッドネックとはアメリカ中南部~南部において多く居住する、貧乏な人たちのことを指す。南北戦争の影響により工業化が遅れた南部では、貧困に苦しむブルーワーカーが多い。

彼らは保湿性が優れ、動きやすく作業がしやすいフランネルシャツを好み、労働者の飲み物の代名詞である瓶ビール(バドワイザーなど)を愛飲することが多いとされる。そして就く仕事の性質上ヒゲを整える必要がないため、ひげは伸ばしたままとなっている。

対照的に紳士的な佇まいをしている中央の男性は、「キリスト教福音派」の牧師のように見える。福音派とは現在、アメリカ人の40%以上が信仰する米国最大宗派であり、信者にはレッドネックの人々が多いことで知られている。

福音派牧師はテレビやネット放送などで、わかりやすい”説法”をするのがその特徴だが、彼らは見た目でハッタリをかますため、やけに高級感ある装いを示していることが多い。

すなわち、一見新興宗教という「別の世界」を描いているようなこのFARCRY5だが、よくよくキービジュアルを推察すると、それはアメリカ人そのものであるということに気づかされる。

フランネルシャツ

・既存のプロテスタントと福音派の違い

それにしても、アメリカ北部が本作の舞台なのに、なぜキービジュアルでは「南部の人たち」と「福音派牧師」が登場しているのだろうか。

鍵は福音派の「特異性」にあるように思う。

アメリカにはキリスト教だけでも実に多くの宗派が存在し、経済階層や人種ごとに、信仰する宗派が異なる。同じキリスト教でも、福音派と通常のプロテスタントとは、その内容や性質が全く違ったものがあらわれる。

通常のプロテスタントは、言うならば「地味」

元々、堕落していたカトリック教会への対抗(=プロテスタント)として生まれた背景があるため、禁欲主義的な態度を持ち、教会主義だったカトリックに対して、個々人の聖書の読解と解釈が活動の中心になる。

そして本を読むのには一定以上の知能が必要になるというわけで、そこそこ以上のインテリが信徒となりやすく、結果としてどうしても地味になりやすい。

一方で、福音派は一言で表すなら「派手」

そこでの礼拝は、われわれが通常イメージするような厳かなものではない。

毎週日曜日になると行われる福音派の礼拝は、ショービニズムに満ちており、訪れた信徒はまるで、フェスやらライブに来た感覚を味わうとされる。

・福音派教会(メガチャーチ)礼拝の様子

会場はショッピングモールや映画館を併設する、数千人以上が収容できるデカいホール。教会の硬い椅子ではなく、コンサート会場そのままのクッション付く会場では、ロックバンドやEDMのライブが催されている。

肝心の説教も派手でわかりやすい演出に加え、信者の欲望や現状をそのまま肯定するものとなっており、自己啓発のようでその場所にいればどこまでいっても心地よい時間が続く。これなら、人びとの心をひきつけるのも無理はない。

時にはケーブルTVやネットでの放送も活用してのメディアミックスも行われ、とかく商業主義に長けた手法で多くの人びとから心と金を集めている。

そしてその人気さゆえ、アメリカの歴史において、福音派は強い影響を及ぼしてきた。

特に1980年代の共和党大統領レーガンや、2000年代の同大統領ブッシュの誕生において大きな役割を果たしたと言われている。

かつてほどではないが現在もその力は大きく、トランプ大統領の誕生においてもその影響力は失われていない。

そんな福音派は、教義においては頑迷なまでの保守性を示す。

それは例えば「宗教の教義の絶対なる肯定」「進化論の否定」「科学教育の否定」「堕胎・避妊の否定」「同性愛の否定」といった点に典型的だ。

科学教育を否定することが、現代世界においてマイナス面が大きいのは言うまでもない。例えば小中の学力テストの世界各国比較において、アメリカは毎回先進国で最下層に位置するが、これなどは科学教育を否定する福音派の存在が理由の一つとしてあると言われている。

そして福音派のクレイジーさの最たるものとしてあげられるのが「終末論に基づく第三次世界大戦待望」だ

これはグレース・ハルセル『核戦争を待望する人びと―聖書根本主義派潜入記』という本に詳しい。これは福音派に入信したジャーナリストによる、ノンフィクション本である。

本書において、福音派のトップにして大統領の宗教顧問を務めるジェリー・ファルエルは公言する。福音派などキリスト教右派が異教徒のユダヤ人・イスラエルを支援するのは、何も長い受難の歴史を持つユダヤ人に対しての同情心からではない。

すなわちイスラエルを支援することで中東情勢を不安定化させ、結果、新約聖書・ヨハネの黙示録に書かれている「ハルマゲドン(最終戦争)」を引き起こしたいからだという。

ハルマゲドンとはようするに人類絶滅のことだから、当然のことながら「仮にそれを起こしたら自分たちも死んでしまうではないか」という疑問が浮かぶ。

これについてファルウェルが説明するところでは「戦争で人類が滅ぼされる前に、われわれ(福音派)は神に召され、また再びこの地に戻ってくるため問題ない」とのこと。

まったくもってわけがわからない。

そしてこのような勢力が多大なる影響力を持つ国、それがアメリカなのだ。

・本作が「Controversial(議論の的となる)な作品」と呼ばれているのはなぜか?

そしてフランスUBIソフトが送る『FARCRY 5』は、同国から送られた(実際の開発はUBIソフト・モントリオールだけど)、エスプリ(皮肉)のように見える。

キービジュアルでは「ぶっとんだ新興宗教家たち」のモデルとして、福音派の人たちそのものが描かれている。これは要するに、福音派ないし、その人たちが支配するアメリカという国そのものへの多大なる皮肉となっている。

このような厭味ったらしい、当てつけのような表現方法はフランス映画や文学において典型的な手法だ。

そして本作はすでに、「Controversial(議論の的となる)な作品」と評されるようになっている

当然のことながら、中にはシャレが通じず怒り出す人もいて、特に戯画化された当のレッドネックの人や福音派の人たちにおいて怒っている人が多いようだ。

事実、彼らが多く集まる(とされる)海外匿名掲示板「4Chan」「reddit」、または「INFOWARS」「BREITBERT(ブライトバート)」などフェイクニュースサイトにおいては、「このゲームはモチロン、UBIソフトのゲームはもう買わねえ」だとか「アメリカ白人を邪悪に描いている。このクソ野郎」などといった言葉の数々が並んでいる。

UBIソフトが本作に対し、どのような意図をもって製作しているのかは定かではない。もちろん最大の目的は「売れるコンテンツを作る」というビジネス的なものだろうけど、時としてフランスの作品らしい、捻くれた批評性や芸術性も垣間見え、そこが面白い。

いずれにせよしばらくの間、本作がさまざまな論争を呼ぶのは確かなようだ。

同社渾身の大作『FAR CRY 5』は、PlayStation 4・PC・Xbox Oneをプラッフォームに、海外では2018年2月27日、日本では2018年春に発売予定。

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