興味深い「アメリカ人に人気ある経済学者ランキング」
先日Webで「アメリカ市民に人気のある(影響力のある)経済学者ランキング」(※1)という記事を見かけたのですが、それが中々どうして、驚きのあるものとなっていました。
ランキング
1.トマ・ピケティ
2.ポール・クルーグマン
3.ジョセフ・スティグリッツ
4.ジェフリー・サックス
5.アマルティア・セン
このランキング、1位~5位まで全員リベラル学者。要するに左翼なんですよ、左翼。ネットの皆さんが大嫌いな。
そしてなんで驚きかというと、アメリカ人というのは基本的に右翼なんですね。ここでいう右翼というのは、日本で言うような「伝統主義」という意味ではなく、徹底した自由主義を追求するリバタリアニズム(自由放任主義)という意味での「右翼」です。
すなわち「政治も経済もとにかく自由にやらせたらええんや。規制なんて厳禁やで。というかな、ホンマは規制なんてする政府なんていらんねん」という立場。ここら辺り、何かあるとすぐ国家による規制を求める日本の右翼とは異なります。
元々アメリカという国は国家(イギリス)に迫害された異教徒(ピルグリム・ファーザーズ)たちが移住して作られたものですから、基本的にアメリカ人は国、ないし国みたいな自分たちの行動を縛るものが大嫌いなわけです。だから基本的にリバタリアン右翼。
自由のためなら銃も持つし医療保険もいらないアメリカ人
国が大嫌いで自由が大好き、だから自由の象徴として「銃を持つ権利」が認められているし、他の国では普通に存在する「国民皆保険(皆医療保険)」が存在しない。「皆保険を導入したら、国家の権限が強まる。しいてはアメリカ全土の社会主義国化につながるのだ」だとか「国家による保険は民間保険業の経済活動の圧迫だ。越権行為だ」とかいう理屈で。
それで代わりに民間医療保険が存在しているわけですが、民間だから金儲け第一なわけで、当然のことながら保険料がバカ高い。貧乏人には到底払えない額であり、加えてアメリカは先進国でもトップレベルの格差がひどく貧しい人が多い国だから、結果、アメリカでは医療保険に入っていない人が4700万人も存在しています(2008年)。
4700万人ですよ、4700万人。アメリカの全国民数が大体2億6千万人ですから、ざっと計算して17%、アメリカ人の約5人に1人が病院で医療費を全額支払わなければならない。
例えばマイケル・ムーアのドキュメンタリー映画『シッコ』では、怪我をしてヒザがパックリ割れちゃったけど医療保険に入ってないから病院に行けなくて自分で縫って済ませる人や、日曜大工で工作中、うっかり中指と薬指を切り落としてしまったが同じく保険に加入してないので接合手術の費用がそれぞれ500万円と300万円と病院で言われ、300万円の薬指のほうを選んだ(追記:あとで確認してみたら中指が720万円(6万ドル)、薬指が144万円(1万2000ドル)でした。大変失礼しました。)とか、ホラーみたいな話が雨あられのように出てきますが、まあそこまでして国による介入というものが嫌いなわけです。
実は最近オバマ大統領が「さすがにこれはまずい」ということで国民皆保険(に近いもの)を導入しようとし、すったもんだの末なんとか導入出来たのですが、これも揉めにもめて、結果「オバマは社会主義者」や「ヒトラーと同じ全体主義者、独裁者」、「オバマはファシスト」果ては「オバマはイスラム教徒(オバマ大統領はミドルネームが”フセイン”なので)」などなど、まあ腐るほどの中傷攻撃に晒され、ネットを漁ればそういう類の画像がわんさか出てきます。
国民皆保険を導入しようとしたらヒトラー扱いとか、ちょっと日本じゃ考えられない光景でしょう。
(以下後日記入)
読書案内
マイケル・ムーアがアメリカの医療保険制度の闇に挑むドキュメンタリー
過激アニメ『サウスパーク』の作者による、政治風刺パペットアニメ。
マイケル・ムーアとの確執(ムーアは銃規制を扱った『ボーリング・フォー・コロンバイン』内でサウスパークのパクリアニメを流した)により、ムーア風キャラクターを劇中内で爆破させている。
売り上げランキング: 23,122
注
1:Tyler Cowen”Who are the most influential economists?”December 31, 2014,MARGINAL REVOLUTIONより。元文章では正確にはアメリカ人人気だけに限定してないですが、英語圏向けの文章、著者がアメリカ人でアメリカ在住の経済学者ということからして「アメリカ人に人気のある~」としてもさほど違和感はないでしょう。
参考文献
Tyler Cowen(2014)”Who are the most influential economists?”December 31, 2014,MARGINAL REVOLUTION
長谷川千春(2010)「アメリカの医療システムー雇用主提供医療保険の空洞化とオバマ医療保険改革ー」『海外社会保障研究』第171号