ブッダやキリストが殴り合う格闘アクション『Fight of Gods』がマレーシアで販売停止
先日アーリーアクセス版がSteamにてリリースされた、キリスト・釈迦像・ゼウスなどが殴り合う格闘アクションゲーム『Fight of Gods』。
アナウンス時からさまざまな意味で注目を集めていた本作。今回マレーシアにおいて、販売停止の憂き目にあうことになりました。
マレーシアの審査機関、通信マルチメディア委員会(MCMC)は、同作の発売プラットフォームであるSteam、ないしソフト販売元に対し「24時間以内に購入する能力を無効にする」ことを要求。 MCMCは政府機関であり、彼らはSteamがマレーシアでの購入を無効にしなければ、「さらなるアクションをおこなう」としています。
・『Fight of Gods:Endless War』のトレーラー
・背景に多民族国家「マレーシア」ならではの複雑な事情が…
さて今回の発禁騒動ですが、背景には多民族国家「マレーシア」ならではの複雑な事情があるようす。
元々マレー系(=イスラム教徒)のブミプトラが人口の6割近くを占めながらも経済的な実権は同20%ほどの中国系華僑(=仏教徒)が握るという複雑な構造が続くマレーシアでは、1963年の独立後から各民族・宗派での対立がさまざまな形となって噴出してきました。
それが最も顕著に現れたのが、1969年の「5月13日事件」。
総選挙における中国系華僑政党の躍進が引き金となって生じたこの暴動では、死者196人、負傷者439人の犠牲者が生じることになりました。
この際、暴動そのものは1日ほどで終息したものの、この事件が引き金となり、裁判を行わずとも何年もの期間において人々の身柄を拘束できる国民治安法(ISA)が発動する恐怖政治が敷かれる事態が発生。このISAは現在においても廃法となっておらず、何かあるごとに発動されることとなっています。
そのため、マレーシアの人びとのあいだでは、政府に対する”culture of fear(恐怖文化)”がしっかりと焼き付いているといわれています。
加えてマレーシアにおいては、イスラム教徒や仏教徒に加え、キリスト教徒やヒンドゥー教徒、儒教道教の信徒も多く、それゆえ本作『Fight of Gods』のテーマは、あまりにもセンシティブなものだったといえるでしょう。もちろん、発禁にする政府側の対応も、いかにも恐怖政治を敷くガバメントのものだといった感があるのは言うまでもありません。
今回の発禁騒動に関し、仏教・キリスト教・ヒンドゥー教・シーク教・道教の各宗派協議会の代表者である Datuk R.S. Mohan Shan氏は「今回の件はきわめてセンシティブな問題であり、受け入れることは極めて難しい。ゲームソフトの販売を禁止するよう、政府は直ちに行動しなければならない」とコメントしています。
参考文献
金子芳樹『マレーシアの政治とエスニシティ』晃洋書房、2001年
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