【前置き】
イギリスの雑誌「The Economist」の2015年6月6日号では政治団体の「日本会議」が特集されました。
会員数3万8000人を数え、議連である「日本会議国会議員懇談会」には国会議員の実に3分の1が加盟しているという非常に巨大な同団体ですが、その影響力にもかかわらず、不思議なことに日本のマスコミではあまり話題に上りません。
現在の内閣でも首相を含む閣僚19人のうち15人が加盟しているというこの団体ですが、その実態は果たしてどのようなものなのでしょうか。日本会議の性質とその実状、政界や神道との結びつきなど極めて興味深い内容となっています。
【本文】
右派の台頭 Right side up
The Economist 2015年6月6日
ほとんど報じられていないが、強力な団体が「戦前の秩序」を復活できると主張している
それは誕生してわずか18年の、名前は”日本の議会”を意味する、ありきたりな「日本会議(にっぽんかいぎ)」だ。日本で最も強力な圧力団体の1つであるが、国家主義的で修正主義的な事項を明確に挙げている。
すなわち、太平洋戦争における日本を東アジア諸国を西洋植民地主義から「解放」したと称賛し、軍隊の再強化、左翼教師によって洗脳された生徒たちに愛国主義の注入、戦前の ”古き良き時代” のような天皇崇拝などを掲げている。
日本会議の支持者達の頭の中においては、民主主義をもたらしたアメリカの戦後占領への感謝はほぼなく、口を開けば「占領とそこから生じたリベラルな憲法が日本を骨抜きにした」と述べる。奇妙なことに、この団体が日本のメディアで扱われることはほとんどない。その強い影響力は政府中枢において増大しているのにもかかわらず。
日本会議は隠れた影響力を保持している。地方支部は280以上、3万8000人の有料会員を持ち、政治中枢に深く根差したネットワークを持つ。団体の前の代表は元最高裁判所長官だった。国会議員の約3分の1は日本会議の議員連盟の会員であり、安倍晋三内閣の閣僚19人においても半分以上が会員である。安倍氏はこの団体の「特別顧問」だ。
著名な支持者である桜井よしこは、日本会議の戦闘力は日本を「普通の国」にすることに向けられている、と言う。教育においては「西洋的な権利」という輸入された概念を弱くし、国家と天皇への献身を強調しなくてはいけないと桜井は述べる。
日本会議は「日本は再軍備し、中国との紛争地帯を断固として守り、紛争を調停する方法としての戦争を放棄した1946年の憲法を捨てるべきだ」と言う。日本が「真のすがた」をたもつために。
日本会議は恐るべき動員力を持つ。この団体は10年前、子どもたちに対して愛国心を強制的に植え付けさせる教育法の改正のために360人万分の署名を集めた。この法の制定は、安倍首相の2006年~07年での不名誉な任期における数少ない達成の1つだった。日本の戦時中での侵略を悪く見せるあらゆることに対し、日本会議のメンバーは絶えず、例えば戦争犯罪の展示会を嘆願や電話によって攻撃するなどして反対活動を行った。
この団体の現在のエネルギーの大半は、憲法改正に向けての国民投票を要求する、1000万人を目標とした署名集めに向けられている。それは平和条項である憲法第9条を削除し、いわゆる「伝統的な家族」の価値感を盛り込むことを求めている。自民党が2012年に作成した新憲法の草案は、日本会議の要求事項の多くを反映した。桜井氏はキャンペーンの看板の1人である。
モンタナ州立大学の山口智美によれば、桜井がキャンペーンの看板として祭り上げられた背景には「女性の多くが日本の長年の平和主義を讃えており、その態度を変えさせることが重要であるということを日本会議が認識していること」があるのだという。
日本会議の存在は中国および韓国のナショナリストが、日本の軍国主義がまた台頭していると主張するに足る理由を与えている。日本会議は安倍氏が東京の靖国神社の参拝を続けるよう求めており、この神社は日本の戦争犠牲者を神として祀っているが、そこには1931~45年において国家を戦争に導き、アジアだけでなく日本にも破滅的な結末をもたらした者も含まれているのだ。
この団体はまた、支持者が謝罪外交と呼ぶ物も拒否し、日本が降伏して70周年にあたる今年、日本の戦争の罪の受け入れをやめさせようとロビー活動をしている。
日本会議と密接な団体として「神道政治連盟」がある。19世紀の終わりから、日本で最も古い宗教である神道は国家の道具として再発明され、天皇の名の下に日本人を戦争に駆り立てるイデオロギーとして仕えた。2007年には神道政治連盟と日本会議によるロビー活動により、政府は4月29日を戦争中の日本の天皇であった裕仁を祝う国民の祝日とした。
この団体に対する反対派でさえ、反動派がどれほど目立たずに日本の政治の光景を変えたかについて驚いている。しかしながら日本会議のメンバーは、変化のペースが遅いと不満をあらわにする。将来における彼らの目的の1つは、彼らの主張が海外から支持され、その上で日本が「他の国々と友好関係を築く」ことをサポートすることだ。しかしながら、目的と異なったことを成し遂げる可能性はある。