なぜ多くの日本人は中流意識を持ったままか。そこから見える日本の貧困の特殊性

なぜ格差が拡大しているのに、日本人の多くは未だに中流意識を持ったままなのか?

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数年前、社会学者とされている大学院生・古市憲寿さんの『絶望の国の幸福な若者たち』という本が話題になりました。ベストセラーなので内容をワザワザ取り上げるのも躊躇いますけど、いちおう確認しておくと、

「若者は絶望的な社会状況が到来しつつあるけど、別にこの現状に立ち上がったりしない。なぜなら若者は幸せだから!」というもの。まあ頭がハッピーな内容です。

あの本の主張は根拠としているデータの妥当性から始まって色々とズサンなもの、学術本というよりはエッセイ小説(エッセイをバカにしてるんじゃないです)といったほうが適切であり、そのまま鵜呑みにするのは愚かなような気がしますが、それでも言わんとすることはわからないでもありません。

以前OECDのデータを元に、このまま格差を放置しておくとドエライ状況になるよ、みたいな文章を書きました。

別にこの話にもかかわらず、最近は社会の格差化に関する話はよく聞くところです。それにかかわらず、なぜ多くの人は中流意識を抱えたままなのでしょうか。少し考えてみます。

日本人はなぜ中流意識を持ったままなのか

①:「意識が高止まりしたまま経済状況に追いつけない」説

日本人の中流意識の強さについて、社会学者の盛山和夫さんは「生活水準『中イメージ』の断続的変化説」を唱えています。

それによれば「人々は自らが属する階層への意識を判断する判断基準が大きく変化しないまま高度経済成長によって生活水準が上昇したことにより、実際は低収入のままの人でも中流意識を持てるようになった。その結果、経済的事情と意識の関連の結びつきが弱まり、経済事情が低下しても意識は中流のまま、漂い続けている」とのこと。

②:「日本の格差は見せかけ」説

また日本社会の格差の性質にもその原因があるのかもしれません。日本社会の格差拡大については1980年代ごろから叫ばれはじめていましたが、その主要因として社会科学者の間で指摘されたのは「人口高齢化」でした。

例えば大企業社員と中小企業社員の年収差を見ても分かるように、一般的に勤労所得は高齢になるほど差が付いてくるものです。ですから世の中が高齢化すると、それだけで数字上は所得格差が生じてくるようになります。

要するに高齢化が原因での格差拡大は、同一世代内での格差の拡大、あるいはライフサイクルを通じた格差の拡大ではないので、いくら数字の上では格差が広がっているとしても、不平等感の高まり、しいては中流意識の崩壊には結びつきにくいものとなります。

③:「非正規雇用の増大により一部の人間だけが転落」説

ただ、だからといって日本社会の格差が見せかけのものかといえば決してそうではなく、最近では社会科学者からも格差拡大の要因として、高齢化に加えて非正規雇用の増加の影響が指摘されるようになっています。

特に若年世代において非正規雇用が増えることによる低所得者の増加、消費格差の増大、階層移動性の硬直化(一度フリーターになったら2度と正社員になれない、など)の現象が見られ、日本の格差拡大が高齢化や一人暮らしの増加といった数字上の見せかけのものに留まらなくなっています。

ただ、これら非正規雇用の増大による若年世代を中心とした没落にしても、被害を受けている人々は全体の大多数ではなく2割程度。いわばマイノリティーなので、格差拡大にも関わらず、多くの人には関係のない話となります。

よって、さほど没落することのないマジョリティーにとっては相変わらずに中流意識が保たれ、そうして社会全体としても中流意識が保たれるという構図が存在することになります。それゆえ依然として社会に中流意識が根深いのかもしれません。

少数者の貧困が保存される日本、変革の可能性があるアメリカ

アメリカで数年前「オキュパイ・ウォール・ストリート」という反格差運動が行われ、運動として大きなうねりを獲得したことについては、ご存知の方も多いかと思います。そこでのスローガンは「We are the 99%(われわれは99%だ!)」でした。

日本と同じく格差社会化が進むアメリカですが、格差の中身は日本と異なります。日本の格差が所得下位2、3割の没落である一方で、アメリカのそれは上位1%ないし0.1%の人々が資本所持により特異的に豊かになり、それ以外の人は総じて貧困の憂き目にある点がその特徴。

・アメリカのトップ1%の所有する富は、平均家庭の288倍

wealthgap288

最近予備選が伯仲しているアメリカ大統領選においても、どの候補者が貧困層への対策を主張しているのを見てもわかるように、アメリカにおいては格差や貧困対策が主要な政治テーマになっているのは御覧の通り。

一方、日本の場合、貧困や格差は話題に上ることはありますが、アメリカほど主要なテーマにはなっていません。

さきほど”「非正規雇用の増大により一部(2、3割)の人間だけが転落」説”が出てきましたが、結局のところ中、産階級以上の暮らしが出来ている多数の人で構成されている日本においては、貧困が社会の切実な主要な問題になることはないのでしょうか。

そう考えると、アメリカのほうが状況が改善する可能性は高く、その一方で、日本の貧困はいつまでたっても放置され続けるのかもしれません。何しろ99%の人々が貧困に喘いでいる世界と、マイノリティーだけが苦しんでいる世界では、民主主義のシステムの下では前者のほうが世界が変わる見込みが高いことは明白ですから。

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そのほか、社会系で書いた文章

参考文献:

盛山和夫(1990)「中意識の意味」『理論と方法』52:51-71

state of working america.org “Ratio of average top 1% household wealth to median wealth, 1962–2010”

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