ホームレスシェルターで暮らすアメリカの博士/大学非常勤講師たち。この現実は日本にも必ず起こる

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全米の大学非常勤講師をインタビューするプロジェクト、”the Adjunct Project”から見えてきたもの

クリス・ラブリーさんとデブラ・レイ・スコットさんは2012年、アメリカ全土の非常勤講師たちをインタビューしていくプロジェクト、その名も”the Adjunct Project”を立ち上げました。2人は講師たちをインタビューしていくにつれ、彼らの中にホームレス、またはホームレスぎりぎりの生活を送る人が多くいる事実を知って愕然とします。

ある非常勤講師は困窮から普通のアパートの家賃が払えず物置に住んでいました。黒人研究/黒人文学の博士号を持つ講師はフィラデルフィアのホームレスシェルターにて生活を送っています。そして芸術学の博士号を持つカルフォルニアの非常勤講師は極度の貧困により何か月も家賃が払えず、現在、夜は路上で暮らしながら講師を続けています。

同じくサービス従業員国際労働組合(SEIU)のレポートでは、パンの耳や大豆の缶詰、あるいはフードスタンプ(低所得者向けに行われている食料費補助)やフードバンク(低所得者向けに賞味期限の切れたパンや缶詰などを配布する活動)で生活する非常勤講師たちの様子が報告されています。大学院生時のほうが生活に恵まれていたと口にする彼らの姿にはやりきれないものを感じます。

現在、アメリカではおよそ半数の授業が非常勤講師によって教えられており(図1)、ここ40年で講師全体に占める非常勤講師の割合は21.7%から66.5%と実に3倍近くまで増加しました(図2)。加えて常勤講師の平均年収が8万4303ドル(およそ1000万円)であるのに比べて、非常勤講師の年収は2万~2万5000ドル(およそ240~300万円) ほどとなっています。

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図1:アメリカの大学授業における非常勤講師が担当する割合。2011年で50%

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図2:2009年で非常勤講師の割合は66.5%(薄黄色)

一定時間以上の授業については講師への保険加入義務が雇い主側にあるため、それを嫌って大学側が非常勤講師に授業をあまり割り当てません。それによる低い収入に加え、アメリカ独特の医療制度が困窮に拍車をかけます。すなわち、ほかの先進国と異なりこの国には公的な医療保険制度が存在しないため、国民は民間の高額な医療保険に頼らざるを得ず、例えばアメリカの非常勤講師ないしポスドクが契約することが多いPPO(Preferred Provider Organization)型保険契約の場合、自己負担で払うとなると年に3000ドル(約36万円)もかかります。

結果、非常勤講師の多くは医療保険に加入していないケースがほとんど、そしてかの国で医療保険に加入していないということは、ただでさえ高い医療費がベラボーにかかることを意味します。これはマイケル・ムーアのドキュメンタリー映画『シッコ』や、最近では堤美香氏の一連の著作でも取り上げられ、話題を呼んだのでご存知の方も多いかもしれません。ムーアの映画では日曜大工で工作中、うっかり中指と薬指を切り落としてしまったが保険に加入していないので手術の費用が中指で720万円(6万ドル)、薬指で144万円(1万2000ドル)が請求、結局薬指だけを選択した人の話など、ホラーみたいな話が雨後のタケノコのようにポンポン出てきます。

とはいえ一見収入額だけ見れば、非常勤とはいっても日本のブラック企業に比べて幾分はまともな金額に見えるかもしれません。しかし、大学街は基本的に生活費のコストが非常に高く、例えばハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、ボストン大学、ノースイースタン大学など有名校が軒並みそびえるボストンは、米大手報道局のCBSによれば平均家賃が2000ドルもかかります。2000ドルというと約23万円なので、年換算にすると276万円。なるほどホームレス状態に陥ったり地下室に住んだりする人が出てくるのも納得できます。

(注:わかりやすくするためボストンの家賃について「平均」と記述しましたが、実際は「中央値」です。)

末は博士、そしてホームレス。この日常は日本でも必ず起こる

さてここまでアメリカの話を書いてきましたが、これは決して日本でも他人事ではないでしょう。仮にこれを読んでいるあなたが大学生として、受けている授業の講師が30代から40代の若い先生である場合、その先生はほぼ確実に非常勤講師です。ジャーナリストの佐々木奎一氏によると、例えば早稲田大学文学部の授業のうち50パーセントほどは非常勤講師によるであり、非常勤講師の年収は200~300万円であるとのこと。

加えて日本の場合、非常に高い大学授業料が足かせとなってきます

以前日本の大学学費の高さ、奨学金制度の弱さがわかるOECDのデータ5つ。学費無償化を留保しているのは、日本とマダガスカルだけという記事を書きました。この記事からもわかる通り、日本の大学授業料というのは世界でも特異であり、各国と比べると異彩を放っているのがわかります。一言でいえば「授業料が極めて高いにも関わらず、奨学金が無いに等しい」

図3は「大学授業料と貸与付き奨学金も含めて奨学金をもらっている人の割合の関係を示した図」。縦軸で示しているのが大学授業料の多い少ない、横軸が奨学金が与えられている学生の割合です。図中、日本は一国だけポツンとしていますね。これはすなわち、日本だけ「授業料が高く、奨学金も充実していない」ことを意味します。

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図3:大学授業料と貸与付き奨学金も含めて奨学金をもらっている人の割合の関係を示した図

続いて図4。こちらは「大学授業料と貸与付き奨学金も含めて奨学金を貰っている人の割合の関係を示した図」。

ところで日本で日頃「奨学金」というものは、世界標準で言われている奨学金のことではありません。世界基準で奨学金とは「返済不要であり給付されるもの」のことを指し、日本のように返済しなくてはならないものは「学生ローン」と呼ばれます。そして、日本において正しい意味での「奨学金」を貰っている人の割合は0.6パーセント。なんと0.6パーセントですよ、1パーセントにも達していません。大学生が100人いても、ちゃんとした奨学金をもらっているのは1人もいない。

そしてその正しい意味での奨学金を貰っている人と大学授業料の関係を示したのが図4。図中縦軸いっぱいに国が並んでいますけど、すなわちこれは学費が安く、その上で奨学金まで与えられている国が多く存在していることを意味しています。

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図4:大学授業料と返さなくてよい給付型奨学金をもらう人の割合の関係を示した図。

この高い授業料、そして奨学金という名の借金が、非常勤講師達にとって多大なる負担となることに疑うところはありません。

加えてもしかしたら、アメリカの非常勤講師たちのほうがホームレスシェルターで暖を取れるだけましなのかもしれません。私も大学時代は札幌のホームレス団体で活動していたのでわかるのですが、とにかく日本の行政はホームレス支援に対してやる気がない。

ここ数年の政権において、ホームレス支援に対して最も理解があったのは支援団体である「自立生活サポートセンター・もやい」を設立した湯浅誠氏が内閣府参与を務めた第1次鳩山政権の時だったと思うのですが、その時でも冬のホームレスシェルターは5室ほど増えただけでした。冬の札幌では百数十名超が路上生活をしています。そして現在、生活困窮者自立支援法の名の下、全国各地のシェルターはどんどん数が減ってきています

加えて貧困者に対して余りものの食料を支援する「フードバンク」についてはどうでしょう。かのスティーブ・ジョブズが大学中退後の極貧期をフードバンクでしのぎ切ったという話はよく知られていますが、日本では?存在しているのすら知られていないレベルなんじゃないでしょうか。

参考文献:

”9 Reasons Why Being An Adjunct Faculty Member Is Terrible” huffington post

”Professors in homeless shelters: It is time to talk seriously about adjuncts” SALON

the Adjunct Project ホームページ「http://adjunct.chronicle.com」

「生活困窮者自立支援法の施行にともなって、ホームレスやDV被害者等に対応するシェルター事業が縮小、空白化するおそれ」NPO法人ホームレス支援全国ネットワーク
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