こんにちは!「サルでもわかるピケティ入門」の第2回です。
第1回は下記リンクからどうぞ↓
さて今回のテーマは「格差拡大のメカニズム」です。
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②:格差拡大のメカニズム
格差拡大のメカニズムの説明において、ピケティはまず次の式を持ち出してきます。
この①式は、経済学の成長理論の一つであるハロッド=ドーマー式の援用です。さてこの式を現実の経済状況に照らし合して考えてみると「貯蓄率sはそのままで、成長率gが落ち低成長時代になると、資本/所得比率βが増加する」ということが読み取れます。すなわち次の構図1です。
実際図1を見ると、ヨーロッパ各国の成長率が低下し始めた70年代から、資本/所得比率βが増加していることがわかります。
加えて、次の式も示されます。
ここで出てくる資本分配率αとは「資本の総額Kに収益率rを掛けた資本所得rKが国民所得Yに占める割合」を意味します。
また前回r>gの回で示したように、歴史の変遷による資本収益率rの変化は見られません。ということは、資本収益率rが今のままで変わらないので、資本所得比率βが増加することは、資本所得のシェアであるαもそのまま拡大することを意味します(構図2)。
図2は資本分配率の推移を示した図ですが、実際、70~80年代から資本所得のシェアαが拡大していることがわかります。
一般に、資本保有は、所得以上に偏在し富裕層による一極保有が著しいことが特徴です。例えば下に示す図3は、米欧トップ十分位(トップ10%)が占める所得シェア、図4は米欧トップ10%(トップ十分位)とトップ1%(トップ百分位)が占める富のシェアをそれぞれ示したもの。どの各国においても所得より資本(富)のほうが富裕層に偏っていることがわかります。
フローとストック
資産のほうが所得より格差が大なることは、それぞれの性質の違いによって説明することができます。すなわち資産はストック、所得はフローという性質を持っていますが、ストックとフローの違いは次の通りです。
- ストック・・・・ある一時点で測られた量
- フロー・・・一定の単位時間辺りで測られた量
現在、左図のように浴槽に水が溜められているとします。浴槽内に溜まっている水の量は、ある一時点における浴槽内の水量なのでストック、一方で蛇口から出ている水の量は、浴槽に一定時間あたりに流入している水の量なのでフローとなります。ストックである浴槽内の水のほうが量が多いですよね。
ストック・・・浴槽でたまっている水
フロー・・・・蛇口から流れている水
同様に、所得はフローであり、その1年間のみの格差を示すものですが、ストックである資産格差は、長い年月をかけて積み重ねられた格差の蓄積を示すものです。ですから資産格差のほうが所得格差より大きいものとなるわけです。
ストック・・・資産格差←長い年月積み重ねられた格差
フロー・・・・所得格差←その1年間のみの格差
だから(一般に)、資産格差>所得格差
話を元に戻しましょう。つまり、資本所得シェア(資本分配率)αが増加することによって労働所得の割合(労働分配率)が低下し、なおかつr>gより資本収益は労働収益より収益率が高く、そのうえ資本を持つのは富裕層であることがほとんどであることから、資本主義下においては豊かな人と貧しい人々の間の格差が拡大していく、ということになります。
格差拡大のメカニズムのまとめ
以上のことを凄まじくかみ砕いてまとめると、次のようになります。
①:これまでの歴史を調べてみたよ。株や不動産など資本で儲けたほうが汗水垂らして働くよりお金になるんだ。
②:低成長時代だから国民所得における資本のシェアが高まっているよ。
③:資本のシェアが高まっているし、そもそも株や不動産を持っているのは金持ちばっかなんだ。だから金持ちと貧乏人の格差が開くんだ。
ここまで来るとピケティの話が、主に所得再分配にフォーカスを当ててきたこれまでの不平等の話とは違うものだということがわかります。『21世紀の資本』では上記の格差構造の説明に続いて、資本収益率を下げるためのグローバルな累進資本課税の強化の必要性が主張されていきます。
・図表引用元
『21世紀の資本』の翻訳を行なった経済評論家、山形浩生氏のホームページ内「ピケティ『21世紀の資本』図表」ページ:
連載:サルでもわかるピケティ入門
①:r>gってなに?
②:格差拡大のメカニズム←今回