追記とお詫び(2015/12/15):
その後よくよく調べたところ、日本は2012年に無償化条約を留保解除していました。ですのでタイトルの「日本とマダガスカルのみ云々」は間違いとなります。
大変失礼しました。
しかしながら大学授業料は無償化されるどころか、財務省方針により今後も高くなっていく予定です。よってタイトルは正確には「日本は留保解除をしながら約束を守らない、詐欺師みたいな国」となります。
データが明らかにする日本の教育の特異性
「OECD(経済開発協力機構)」という国際機関をご存知でしょうか。
加盟している国は日本も含め、北米、ヨーロッパなどといった先進国が多く、そのため「先進国クラブ」などとも呼ばれています。
ところでOECDでは毎年「OECD:education at a glance」という、加盟国各国の教育実態に関するリサーチ本を発刊しているのですが、これにはなかなかどうして、興味深いデータの数々が載っています。
今回はその中から、大学の学費に関するデータを紹介いたしましょう。
1.日本の大学学費は世界各国と比べて実に高い
図1は縦軸が大学の年間学費、横軸が公的奨学金/ローンを受けている大学生の人の割合を示しています。
図1.
このグラフからは、世界各国を次のグループに分けることが出来ます。
①グループ:授業料が高いが、奨学金が充実しているグループ・・・アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど
②グループ:授業料が高く、奨学金も充実していないグループ・・・日本
③グループ:授業料が安く、奨学金が充実していないグループ・・・大陸ヨーロッパ⇒スペイン、イタリア、スイス、メキシコ、フランス、ベルギーなど
④グループ:授業料が安く、奨学金も充実しているグループ・・・・北欧⇒ノルウェー、デンマーク、フィンランド、スウェーデンなど
4つのグループに分けることができますが、その中において一つだけポツンとしているのが日本。
すなわち大学の学費という点において、世界の中でもとりわけ過酷な状況に位置しているのが日本だということがわかります。
北欧諸国が並ぶ「授業料が安く、奨学金も充実しているグループ」など、日本の環境からすれば驚きであり、夢のまた夢のようですね。
2.日本は教育費の公的支出が少ない
次に示すグラフは、図2が「国家の全支出に占める教育支出の割合」、そして図3が「大学教育費GDPに占める割合」をそれぞれ示したもの。
図2.
図3.
図2は「公的支出が国家の総支出に占める割合」を示したものであり、赤丸で囲ってあるのが日本。
日本はここにおいて、OECD各国で2番目に低いものとなっているのがわかります。すなわち「日本では国が教育にカネを出さない」ということですね。
一方の図3は「大学教育支出の対GDP比」を示したもの。
このグラフでは日本は、ほかのOECD諸国と全体的な支出は一見変わりません。しかし、その内訳は、赤の棒グラフ(公的支出、すなわち国)の数値が他国と比べて極めて低く、私費支出の割合(家庭)が高いことがわかります。
要するに、さきほどの「日本では国が教育にカネを出さない」と同様の話で、国がまともに大学学費への援助を出さないから、親が苦労して子供の学費を捻出しているということがわかります。
もう少し硬い言い方をすれば、「日本では国家による高等教育(大学教育)への支援が極めて貧弱で、学費は各家庭への負担が大きい」ということでしょうか。
3.日本は奨学金(給付)制度がないも同然
次は図4が「大学教育に対する国からの支援のうち、家計へのものに対する援助の割合」、その下の図5は「大学生のうち、大学学費と給付型奨学金をもらう人の割合」を示しています。
図4.
図5.
ところで実のところ、日本で日頃「奨学金」というものは、世界標準で言われている奨学金のことではありません。
世界基準では奨学金とは「返済不要であり給付されるもの」のことを指します。そして日本のように返済しなくてはならないものは「学生ローン」と呼ばれます。
ですから、OECDのグラフ上では日本の「奨学金」は、ほとんどが学生ローンに分類されるわけです。
そう日本での「奨学金」の用法は、世界基準にさらせば、詐欺です。
図4のグラフにもありますが、高等教育の学費において、日本は家計への補助はOECD平均(24%ほど)より高い(30%ほど)ものとなっています。
しかしそのほぼ全てが「学生ローン」(青)であり、純粋な「奨学金」が全体に占める割合は0.6パーセントにすぎません。
次に図5は学費と奨学金をもらう人の割合を示したものです。この図を見ると、学費が無料あるいは低額の国であり、さらには奨学金が給付される国が多く存在していることがわかります。
チェコ、アイスランド、ドイツ、フィンランド、スウェーデン、フランスなどがそれに当たります。要するに、ヨーロッパの国のほとんどがそうですね。
むしろ「日本のような学費が高くそれでいて奨学金制度も脆弱な国は、世界ではマイナーであり、異質な存在である」ということがわかります。
国連の学費無償化条項を留保しているのは、世界で日本とマダガスカルだけ
ここまで来ると日本の大学学費を取り巻く状況が、世界標準と比べていかに異様なものか、ご理解いただけたのではないでしょうか。
ところで国連総会で採択された規約として「国際人権規約」というものがあり、そしてその中に高校と大の学費を段階的に無償化することを定めた「A規約(社会権規約)第13条」というものがあります。日本政府は1979年にこの条約に加わりました。
しかしながら、日本はこの条約に加わりながらも未だ条約を留保し続けたままとなっています。同条項を留保している国は、条約加盟国160カ国のうち、日本とマダガスカルの2カ国しかありません。
【ほか奨学金・教育関係の記事】
参考文献
OECD(2014)”education at a glance 2014”