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結局、金持ち高収入のほうが幸福なのか?
タイトルにおいて”結局”と付けたのは、幸福感に関してこれまでは「所持するお金と幸福感には弱い相関しかない」なる話が広く世間に流通していたためです。
政治学者リチャード・イースタリンが1979年に見出したこの話は、氏の名前を取って「イースタリンの(幸福の)パラドックス」と名付けられました。
例えば悠久から差別の憂き目にあった不遇の民ユダヤ人が、差別されるがゆえ、これまた卑しい職として差別されてきた金貸し業などにしか就けなかったように(それが結果として、彼らが今日のウォール街の巨大証券会社など巨万の富と影響力を獲得するのにいたったのは、歴史の皮肉)、人類においては「金=卑しいもの」という常識があるのは周知の事実(とはいえこれも、現代の快楽主義=ヘドニズムの流れの中で、半ば失われつつある”美徳”なのかもしれませんが…)。
それゆえ「金と幸福に関係などない」というイースタリンの話は、多くの人びとに馴染みやすいものだと言えましょう。
そういえば「金持ち=心が寂しい・不幸なやつ」という構図は、映画においてよく見られる図式の一種でもありました。
古くはオーソン・ウェルズが新聞王ハーストを描いた『市民ケーン』がそうですし、最近ではデヴィッド・フィンチャーがFacebook創業者マーク・ザッカーバーグを描いた『ソーシャル・ネットワーク』がそれ。まったくもって枚挙にいとまがありません。
ところが最近の研究結果では、結局のところ「所得と幸福感には強い相関関係がある」とのこと。特に国同士で見た場合、相関関係は明らかであるそうです。
これは経済学者ベッツィ・スティーブンソンとジャスティン・ウォルファーズ両氏による研究。なぜこれまでの研究結果と結論が異なるのかについて、両氏によれば「過去の時代ではデータが不充分であったため、正確な様子が描写できなかった」とのこと。
とはいえ、やはり文化差はあり、日本やポルトガル、ブルガリアなどはそれなりに裕福であるにもかかわらず、幸福感が相対的には高いものとはなっていないようです。
・とはいえ、社会調査上のトリックによる可能性も…
ただつまるところこういう話は、例えば日本でもマスコミが世論調査をする際、時として自社のオピニオンにふさわしいような設問の配置具合・聞き方やその誘導を行うのと同じ。
要するに調査のやり方次第で、どのようにも都合よい結果が得られるため、必ずしも今回の話を100%鵜呑みにするのは避けたほうが良さそうです。
参考文献:
The Economist ”The rich, the poor and Bulgaria” 2010年10月16日