なぜ世界各国には、まともな大学奨学金があるのか。ある一面への回答
・世界の他の国にはまともな奨学金がある
以前紹介しました、「日本以外の国には、まとまな奨学金制度が存在している(日本の”奨学金”の実態は学生ローン)」「日本以外の国は大学の学費が安い」といったグラフ。
再掲:世界各国における大学学費の高さと奨学金の関係
(縦軸は大学の年間学費、横軸が公的奨学金/ローンを受けている大学生の割合)
同:奨学金と授業料の関係を世界各国において分類
グループ①:大学の授業料が高いが、奨学金が充実しているグループ
・・・アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど
グループ②:授業料が高く、奨学金も充実していないグループ
・・・日本
グループ③:授業料が安く、奨学金が充実していないグループ
・・・大陸ヨーロッパ⇒スペイン、イタリア、スイス、フランス、ベルギー、ほかメキシコなど
グループ④:授業料が安く、奨学金も充実しているグループ
・・・北欧⇒ノルウェー、デンマーク、フィンランド、スウェーデンなど
あれをご覧になった方の中には、次のような疑問を抱かれた方もいるのではないでしょうか。すなわち、
- なぜ日本以外の国は、まとまな教育環境があるのか。奨学金が整っているのか
ということです。
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・教育がボロいはずのアメリカや発展途上国にも奨学金があるよ
さて一般的に教育環境が整備されている国と言えば、フィンランドやスウェーデンなど北欧の国々が思い浮かびます。
しかし上記図を見てもわかるとおり、こと大学教育・高校教育においては、高校教育の環境のひどさがエピソードの随所に出てくるドラマ(『ブレイキング・バッド』)が作られるような国・アメリカや、チリやメキシコといった発展途上国に至るまで、日本より格段に教育環境が整備されているのがわかります。
・大学への教育投資が経済成長を生む
それならば一体、なぜ日本以外の国では大学教育が整備され、奨学金が充実しているのでしょうか?
答えはカンタン。ザックリ言えば、
「教育投資が経済成長を生むから」
です。
例えば経済学の「内生的経済成長理論」が説明するところでは、
「高い教育を受ける人の数(大学教育を受ける人)が多ければ多いほど、その国においては技術革新が生まれやすく経済成長が促されやすい」
ことが知られています。
・実証面も大学教育の重要性を支持
実証的なサポートを見てみても、やはり内生的経済成長理論の方向性に間違いはないようです。
例えば、戦後日本の経済成長においてどの要因の役割が大きかったのかを研究したMiyazawa[2011]からは、教育・教育投資の貢献度の高さが分かります(表1、図1)。
さらに言えば時代が下り、人口増が見込めなくなった現代の低成長時代においては、ますます教育の貢献度と存在感が高まっていることもわかります(図2)。
表1.要因ごとに見る日本の経済成長率
Ψ=0.58
GNP | 生産性 | 物的資本 | 教育投資 | 労働投入量 | |
1956~73年 | 9.3 | 3.3 | 3.1 | 2 | 0.9 |
1973年~90年 | 3.8 | 0.7 | 1.9 | 0.8 | 0.5 |
1990年~2003年 | 1.3 | 0.4 | 0.9 | 0.5 | -0.5 |
※労働投入量は就業者数と労働時間の合算
図1.要因ごとに見る日本の経済成長率
表2.要因ごとに見る日本の経済成長率
Ψ=0.28
GNP | 生産性 | 物的資本 | 教育投資 | 労働投入量 | |
1956~73年 | 9.3 | 3.8 | 3.1 | 2 | 0.9 |
1973年~90年 | 3.8 | 0.4 | 1.9 | 0.8 | 0.7 |
1990年~2003年 | 1.3 | 0.1 | 0.9 | 0.5 | 0.1 |
※労働投入量は就業者数と労働時間の合算
参考文献
Kensuke Miyazawa ”Measuring HumanCapital in Japan” RIETI Discussion Paper Series 11-E-037. March 2011