「イスラム国に身代金を払わない」という非情な行動の合理性の科学

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ビジネスとしての誘拐

イスラム国(ISIS)による日本人誘拐事件の身代金要求期限が迫っています。ISISのみならず、反社会的集団による誘拐事件が各地で相次いでおり、誘拐が一種のビジネスと化しているのが現状です。例えば1月22日付の毎日新聞では次のように伝えています。

昨年以降、過激派以外の地元住民や反体制活動家が、金銭目的で過激派の誘拐ビジネスに手を貸す行為が目立つようになった。通訳やガイドを装って外国人に接近し、身柄や所在に関する情報を過激派に渡す見返りに、現金を得る手口だ。昨年9月にイスラム国に処刑された米国人記者の遺族代理人は米CNNに対し、取材に協力した反体制派武装組織が記者の所在情報を2万5000〜5万ドル(約300万〜600万円)でイスラム国に売ったと述べている。
( 『イスラム国拘束:誘拐仲介ビジネス横行…後藤さんも被害か』、毎日新聞、2015年01月22日)

「テロリストには屈しない」ことの合理性

このような事件においては通常、政府はいくらテロ組織が身代金を要求してもその要求に答えません。被害者の人命を考えるとこのような行為は一見、実に非情なように思われますが、いろいろと勘案すると実は政府のこの行動にはある一定程度の合理性があることがわかります。順を追って考えてみましょう。

・テロリストによる誘拐事件が発生。犯人が人質の解放と引き換えに身代金を要求。政府は要求を呑むべきか、呑まぬべきか(図1)

gametheory_1(※:x>0、y>0、-s<0、-t<0)

いったん誘拐事件が発生してしまったあとでは、政府は犯人の要求を呑むことが最適となります。要求を呑めば人質が帰ってくるのですから、要求を呑むことが最適、合理的となるわけです。(図2)

gametheory_2

ところが、テロリストがこれを見越して1段目で最適な行動をとると、テロリスト集団は誘拐するたびにxの利得が見込めるため、誘拐を行なう動機づけが生まれてしまいます。(図3)

gametheory_3このような時には、「誘拐事件が起こってもテロリストとは交渉しない」という行動を取ったほうが、テロ集団が誘拐する動機づけが絶たれるため、結局長い目で見れば誘拐事件が減り国民のためになる可能性があります。「何があっても政府が身代金を支払わない」という事が示されていれば、テロ集団は例え誘拐しても利得は-s(<0)ですから、元から誘拐しないほうがよい、という事になるわけです。

実際、各国はこの原則に従って行動しており、2013年6月には北アイルランドで開かれた主要8か国首脳会議(G8サミット)においてテロリスト集団に対する身代金の支払いを拒否する共同声明が出されました。

6. 我々は,我々の国民を守るとともにテロリスト・グループがその繁栄を可能とする資金を得る機会を減少させることにコミットしている。我々は,テロリ ストに対する身代金の支払を全面的に拒否し,世界中の国及び企業に対し,我々の後に続き,テロリストにとり格好の他の収入源と同様に身代金を根絶させるよう求める。(「2013 G8ロック・アーン・サミット 首脳コミュニケ(仮訳)」外務省ホームページより)

「最適」な行動が最適にならない

さて、これまでに見てきたように、一見各時点において最適な行動が全体としては最適な行動には必ずしもならない、という事が起こることがあります。このような場合、どのように対処すればよいのでしょうか。次回以降考えてみたいと思います(つづきます)。

参考文献:

『イスラム国拘束:誘拐仲介ビジネス横行…後藤さんも被害か』、毎日新聞、2015年01月22日

「2013 G8ロック・アーン・サミット 首脳コミュニケ(仮訳)」外務省

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