「福祉の充実が働く意欲を失わせる」
巷にあふれる“神話”あるいは”常識”の一つとして、「福祉を充実させると人々の働く意欲がなくなる」というのがありますね。このフレーズの後には「だから福祉を充実させるのは良くないぞ」と続きます。
「福祉というセーフティーネットで守られていると、一生懸命に働かなくても良いから働く意欲が失われる。中には福祉制度を悪用する輩も出てくる。よって福祉国家なんて目指すのはもってのほかだ。国に頼らず家族による『自助努力』!『小さな政府』こそ我が国の目指す道なのだ!!」みたいな。ほら、テレビを付けると偉い人がしたり顔で口にしていたりする。あたかも当然のことのように言われているから、うっかり本当のことだと思ってしまうでしょう。
そんな”神話”ですが、実は間違ってるんですね。例えばフランスとアメリカの労働参加率を示したグラフが、こちら。
これは米新聞ニューヨークタイムズのコラムに、プリンストン大学の経済学者ポール・クルーグマン教授が出したもの。青線がフランス、赤線がアメリカでそれぞれ25歳から54歳における労働参加率を示します。フランスの方が労働参加率が高いってことは歴然ですね。
そもそも前提として、フランスとアメリカで福祉が充実しているのはどちらか、という話がありますね。まあ大体想像つくと思いますが、フランスの方が福祉は充実しており失業保険に関しても恵まれている。
具体的にみると、フランスの失業保険は最長3年間、元の賃金の57.4%から75.0%が支払われ、さらには補完制度として失業扶助と連帯所得手当というものまであります。一方のアメリカは、期間は26週間、週に287.73ドル(約3.46万円)程度。日本円換算で月に約13~17万円といったところ。
マイケル・ムーアのドキュメンタリー映画『シッコ』では、結婚して現在はフランス在住の米出身女性が、自身の恵まれた環境とアメリカの低福祉下で必死で働く両親とを対比させて罪悪感を吐露するシーンが出てきますが、それもさもありなんでしょうか。
話は戻ると、すなわち、福祉水準としてはフランスの方がアメリカよりも高く、それでいて労働参加率もフランスの方が高い。
「福祉を充実させると人々の働く意欲がなくなる」というのは全くのデタラメということがわかるわけです。
(つづきます。)
参考文献
独立行政法人 労働政策研究・研修機構「失業保険制度の国際比較―デンマーク、フランス、ドイツ、スウェーデン」
リクルートワークス研究所「米国の失業保険」2009年6月12日
Krugman,P “Cheese-eating Job Creators”THE NEWYORK TIMES,May 21, 2014 10:39 am