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超絶コネ社会 (クローニズム)の申し子・トランプと、低成長時代がコネ主義社会に陥る理由

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超絶コネ社会の申し子・トランプと、低成長時代がコネ主義社会に陥る理由

・多額寄付の大富豪、大手金融出身者、大統領の友人や親族…

個人的に毎回拝聴しているラジオ番組「たまむすび」内コーナー「町山智浩アメリカ流れ者」にて、評論家の町山智浩氏が、トランプ大統領の閣僚人事について興味深いことを話していました。

番組での町山氏の発言を元に、さらに情報を加味してトランプ政権の組閣人事を整理すると以下のようになります。

・トランプ政権の組閣人事

・労働長官:アンディー・パズダー

(ファストフード大手、CKEレストランツ・ホールディングス最高経営責任者。トランプに献金33.2万ドル。第2次世界大戦後、共和党の大統領が企業のCEOを労働長官にしたことはこれまでなかった。そして実は移民賛成派

・中小企業長官:リンダ・マクマホン

(アメリカ最大の興行団体「WWE」CEO。トランプに献金750万ドル

・司法長官:ジェフ・セッションズ

(公民権運動に反対し、黒人公民権運動家を訴追。「KKKに共感する」との発言をした過去あり。1986年には連邦判事に任命されるも、人種差別主義者の疑惑により上院から承認を拒否される)

・財務長官:スティーブン・マヌーチン

(金融大手ゴールドマン・サックス元CEO。トランプに献金42.5万ドル

・首席戦略官兼上級顧問:スティーブン・バノン

(ニュースメディア「ブライトバート・ニュース」元CEO。ゴールドマン・サックス出身)

・エネルギー省長官:リック・ペリー

(元テキサス州知事。かつてエネルギー省の廃止を主張するも、その主張は同省の業務内容をまともに把握してのものではなかった

・環境保護局長官:スコット・プルイット

(地球温暖化懐疑派であり、これまで当局による地球温暖化対策を批判し反対してきた。石油業界とのつながりも深く、2014年には石油会社の側に立ち、環境保護局による規制に反対した)

・商務長官:ウィルバー・ロス

(投資家。総資産29億ドル。トランプに献金20万ドル

・国家経済会議議長:ゲーリー・コーン

(金融大手ゴールドマン・サックス社長兼最高執行責任者)

・教育長官:ベッツィー・デボス

(アムウェイCEO夫人で総資産51億ドル。キリスト教原理主義「北アメリカ改革派教会」出身で、公立教育廃止主義者であるとともにチャーター・スクール(私的学校)推進運動に携わる。トランプに献金180万ドル)

・住宅都市開発長官:ベン・カーソン

(黒人医者。医者なため、行政経験は未経験)

・国務長官:レックス・ウェイン・ティラーソン

(世界最大の石油メジャー、エクソン・モービル会長。現地法人を構えるロシアとは関係が深く、過去にはロシアへの経済制裁に反対したことがあるため、共和党からも国務長官としての資質に懐疑論が出ている)

・ワクチン諮問委員トップ:ロバート・F・ケネディ・ジュニア

(ジョン・F・ケネディ元米大統領の甥。弁護士で反ワクチン活動家、陰謀論者

・駐イスラエル大使:デービッド・フリードマン

トランプの友人という理由で選出。弁護士で外交経験がないだけでなく、イスラエルとパレスチナの共存案に対して反対)

・中東和平特使:ジャレッド・クシュナー

(トランプの娘婿でトランプ・オーガナイゼーションの副社長。友人という理由で駐イスラエル大使に選ばれたフリードマン氏と共に、新大統領の中東和平に対する興味の無さがうかがわれる)

メンバーを眺めますと、いやはや「私はウォール街と戦うんだ。エスタブリッシュメントと戦うんだ。既得権者と戦うんだ」って言っていたのに、閣僚は全部既得権者なんですよという町山氏のコメントが的確です。

すなわちトランプ政権の閣僚メンバーから伺えるのは、①:トランプ氏に多額を献金した大富豪、②:大手金融会社の出身者、そして③:トランプ氏の友人や親族など、とにかく超金持ち&既得権益層&コネ関係なメンバーばかり。なおトランプ政権の閣僚6名は、実に合わせて1200万ドル(13.5億円)を、トランプ氏陣営に献金していたんだとか。

そもそもにおいてトランプ氏自身が、自身の事業と大統領職との利益相反を指摘されています。

・ビジネスの既得権者たちが自らに都合良く社会のルールを作り変える国、アメリカ

こういった一連の話を聞いて、自分が思い出したのは『人びとのための資本主義』という本のでした。

この本の著者・ジンガレスはイタリア生まれ。氏が生まれ育ったイタリアは「重要なのは何を知っているか(知識・実力)ではなく、誰を知っているか(誰とコネがあるか)」と呼ばれるほどの超コネ社会。

典型なのが元首相のベルルスコーニ氏。すなわち、メディアのボスがその影響力を駆使して首相になり、自身の親族や関係者ばかりに便宜を与え、結果として、権力を握った一部の人間とその周辺のみが資源を独占するようなみたいな事態。

著者はこのような母国の超絶縁故コネ主義な社会(クローニズム)に嫌気がさし、大学院生時にアメリカに移り、そして同国で職を得ます。

そして実力をつければどこへでもキャリアを築くことが可能な、その自由で民主主義が守られた80年代のアメリカ社会に心地よさを抱いていた著者ですが、しかし現在のアメリカはイタリア同様「自由市場の概念がどんどんビジネスの既得権に支配」され、結果「民主主義の均衡が根本から変わってしまっている」と述べます。

・低成長時代で企業が生き延びる術=「自身に都合よいルールの作り替え」

それにしてもなぜこのような、大企業による都合の良いルールの作り替えが起きているのでしょうか。経済学者で2015年にノーベル経済学賞を受賞したアンガス・ディートン教授は、次のように解説します。

  1. 現在のように経済成長が見込めない時代においては、企業はパイを大きくしようとするより現状のパイの取り分を大きくしようとする
  2. なぜなら企業がこれまでと同等以上の益を得ようとした場合、パイの拡大より取り分を求めたほうがカンタンだから
  3. そのため低成長時代において、ひとたびある程度の地位を得た企業は、許認可権など参入障壁または企業補助金や規制などとにかくありとあらゆる手を駆使し、自分だけに有利な世界を作ろうとする
  4. 結果として、大企業だけに都合の良いようにルールが作り替えられる

そのため現代の低成長時代では、政治家への献金などのロビー活動を通し、既存の法律をねじまげ自らに都合良い方向にもっていこうとする傾向が強くなるとのこと

そういえば発展途上国というのは大概において、一部の人間に富が集中していますね(一般的に、格差を示すジニ係数は発展途上国ほど数値が大きくなる傾向にある)。

いずれにしろ、このようにしてアメリカは一部の特権階級に富と権力が集中する発展途上国のようになりつつあるんだそうです。

・富裕層だけのニーズに特化しつつある米国議会

そしてこれら両部門と富裕層のニーズのために特化しつつあるのが、現在のアメリカ合衆国議会であるんだそうです。

ディートン教授は、アメリカの場合とりわけ「金融」と「医療」の両部門が強大な権力と政治力を手にしていると述べます。

例えば、米国立衛星研究所(NIH)は2015年、低所得者でも医療保険に加入できるようにした制度・通称「オバマケア」の有効性を主眼とした研究に対し、研究助成金を出さないことに決めました。

これは米国議会の要望を受けてのものですが、なぜならオバマケアの有効性は既に様々から報告が上がっているために、これ以上研究されると都合が悪いためです。

同様に、医療保険業界が自身に都合の悪い話をとにかくつぶす話は、マイケル・ムーアのドキュメンタリー映画『シッコ』にも出てきます。

このドキュメンタリーでは、90年代のクリントン政権の下、国民皆保険が無いため貧乏人が風邪を引いた場合では数十万円の治療費がかかる~みたいなことが起きているアメリカ社会をなんとか改善させるため国民皆保険を導入しようと奮迅した、当時ファーストレディーだったヒラリー・クリントンが登場。

そしてそれに対し、医療保険業界がどのようにしてヒラリーの皆保険案を握りつぶすため、ロビー活動を駆使して米国議会に医療保険改革案反対派を増やし、ヒラリーを握りつぶしていったのかが描かれます。

アメリカにおいて、金融業界を代表とする人口0.1%の人びとに富が集中しているのはよく知られたところですが、なるほど最近では富の集中だけでなく、健康や医療、社会福祉といった面においても歪みが生じていることがわかってきました。

例えば下のグラフは縦軸に寿命、横軸に一人当たり医療費をプロットした世界各国のデータ。右下に一つだけポツンとしているのがそうアメリカ。アメリカは医療費が異様に高い割には寿命がそれほどではないことが知られています。

引用元:Atlantic.com

さて、大統領職就任後の「twitter恫喝」が典型的ですが、これまでの事業家としてのトランプ氏は、正に自身が得た権力を様々な形で歪めては都合よく利用していく「クローニズム」の申し子みたいな人物でした。

果たして今後どうなるのでしょうか。実のところ、大統領の権力はそれほど強くないから大丈夫なのでしょうか。

それはそれとして、実のところ「共和党=小さな政府=経済優先=経済に強い」みたいなイメージとは裏腹に、共和党政権時には経済パフォーマンスが低下することが知られているのですけれど…。

・それぞれの大統領就任時の平均GDP成長率

(青が民主党大統領、赤が共和党大統領)

引用元:AEI.org

参考文献:

町山智浩「トランプ政権の閣僚人事」TBSラジオたまむすび アメリカ流れ者 2017年1月16日

ニューズウィーク日本版 2017年1月17日号、CCCメディアハウス

AFP通信「環境長官に温暖化懐疑派、トランプ氏人事に怒りの声」2016年12月09日

Washington Post ”Vaccine skeptic Robert Kennedy Jr. says Trump asked him to lead commission on ‘vaccine safety” 2017年1月10日

Washington Post ”Six donors that Trump appointed gave almost $12 million with their families to back his campaign and the party” 2016年12月9日

The huffington Post ”Who Is Jeff Sessions? Donald Trump Names Senator, Dogged By Accusations Of Racism, Attorney General” 2016年11月18日

アンガス・ディートン「人類を追い詰める格差社会」日経サイエンス 2016年12月号 日経サイエンス社

Derek Thompson ”10 Ways to Visualize How Americans Spend Money on Health Care” The Atlantic,2012年5月19日

James Pethokoukis ”Are Democrats really much better economic presidents than Republicans?” AEI.org,2014年7月29日

BBCJAPAN「【米政権交代】トランプ氏の経営権移譲では不十分=米倫理局トップ」2017年01月12日

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