【映画レビュー】『スティーブ・ジョブズ(2015)』。大胆な脚本構成で、現代の偉人の生涯を『オデュッセイア』などギリシア英雄物語の構造に当てはめて描く

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【映画評】『スティーブ・ジョブズ(2015年版)』。大胆な脚本構成で、現代の偉人の生涯を『オデュッセイア』などギリシア英雄物語の構造に当てはめて描く

あらすじ:

1984年、スティーブ・ジョブズは激怒していた。Macintosh発表会の40分前、「ハロー」と挨拶するはずのマシンが黙ったままなのだ。挨拶をカットしようという周囲の意見に耳を貸さないジョブズ。そこへ元恋人が、彼が認知を拒む娘リサを連れて現れる。混乱の中、ジョブズは今度は突然、朝の9時前に胸ポケット付きの白いシャツを用意しろと指示。次々と繰り出される彼の不可解で強硬な要求に周りは振り回されるが、そのすべてには重大な理由があった…。

アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏が2011年に亡くなって以来、氏を題材にした伝記映画やテレビドラマが実に多く作られました。ただそれらはどれもIT界の偉人の人生をそのまま辿ったものが多く、記録映画やドキュメンタリーとしては面白いかもしれないが、ストーリーとしての面白さにかけ、全体としては小粒で平坦なものが多かったのは否めません。逝去後すぐに公開された、アシュトン・カッチャー主演『スティーブ・ジョブズ』などはその典型。

・アシュトン・カッチャー版

一方今回紹介するのは、2015年に公開されたダニー・ボイル監督、アーロン・ソーキン脚本、マイケル・ファスベンダー主演のほうの『スティーブ・ジョブズ』です。

さて今作は、

  • ①:舞台は1984年。世界で初めて個人用パソコンとして1977年に売り出した「APPLE Ⅱ」が大成功した後、新型PC「Machntosh(Mac)」公開するスピーチ直前の30分
  • ②:舞台は1988年。Macの売れ行きが惨敗したためジョブズは85年にAppleを解任され、その後新会社NeXTを立ち上げる。新機種「NeXTcube」を公開するスピーチ直前の30分
  • ③:1998年、アップルに復帰、初となる製品(そして大ヒットし、iPod・iTunes➾iPhone➾iPadとつながる現在のApple帝国の礎を作った)「iMac」の公開スピーチ直前の30分

と、劇中はジョブズの人生における3つのシーン・30分間がそれぞれ提示されるだけの、実に奇抜な脚本構成を採用。

しかし奇抜なものとはいえ、ある種ではわかりやすい物語構造となっています。

なぜなら、これは神話学者のヨーゼフ・キャンベルが著書『千の顔を持つ英雄』『神話の力』などで示した、古今東西にある英雄物語の典型的なストーリー構造である、

  • ①:旅の始まりと第一の成功
  • ②:挫折による失楽園(旧約聖書のパラダイスロストのほうであって、渡辺淳一のエロ小説ではない)という受難、放浪
  • ③:復活と再生、帰還

を、そのままなぞっているため。『スティーブ・ジョブズ』の各シーンと神話の物語構造を対比させると、そっくりそのままであることが分かります。

キャンベルが示した「英雄物語の構造(ヒーローズ・ジャーニー)」は、ギリシア神話の『オデュッセイア』から始まって、新約聖書や西遊記、映画などでも『スターウォーズ』や『マトリックス』『ロード・オブ・ザ・リング』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『2001年宇宙の旅』『インディペンデンス・デイ』『アルマゲドン』『ビューティフル・マインド』など、数多くの作品においてみられ、いわば一種の「ヒット作のセオリー」となっています。

元々生前から、スティーブ・ジョブズという人物は、その数奇な人生が「英雄物語そのものだ」との評価を受けていました。逝去後に出版され日本でもベストセラーになったウォルター・アイザックソンによる伝記『スティーブ・ジョブズ I・Ⅱ』も、氏の人生の英雄性が強調されたつくりとなっています。

加えて作中では、ジョブズの親としての成長物語としても作られており、自己主張を貫き通すため始終ほかの登場人物との怒鳴りあいを繰り広げていたジョブズが、最後の第3幕では、私生児リサとの協調と融和を担うようになります。そのようなジョブズの「人間としての成長」がなされた上で最後のシーン、拍手喝さいで観衆から迎えられるジョブズの様子は、正しく王の帰還を連想させ、(アップルとジョブズの歴史を知っていればいるほど)心揺さぶられるものとなっています。

脚本のアーロン・ソーキンは、同じく脚本を担当した2010年公開の『ソーシャル・ネットワーク』では、Facebookという大企業を創り上げ巨万の富を得た男、マーク・ザッカーバーグの心のうちにある虚構性・退廃性・幼児性を、古典映画の『市民ケーン』やアメリカ小説の古典『華麗なるギャッツビー』、しいてはそれらの源流にある、新薬聖書の禁欲主義と富を持つものへの蔑視感情(「金銭を愛することが、あらゆる悪の根だからです;新約聖書テモテへの手紙 第一 6-10」「金持ちが神の国に入るよりも、 ラクダが針の穴を通る方がもっとやさしい;同マタイの福音書 19-24」)らを下敷きとして描きました。実在する偉人の人生を古典を元に翻案する技術に長けた人なのかもしれません。

ヒーローズ・ジャーニーのエッセンスを煮詰め、結果、三幕構成の芝居のような大胆なシナリオ構成にした脚本家の妙技炸裂といったところである本作が、アカデミー脚本賞を受賞できなかったのは残念なところです。

ただ、本作のAmazonユーザーレビューの数々を読んで気が付きましたが、ある程度アップルとスティーブ・ジョブズについて知っていないとわかりにくいストーリーで、人によっては「ただただ怒鳴りあっているだけの映画」「起承転結がない」と見えなくもありません(自分は一応 ITっぽいサイトを運営するくらい、ジョブズとアップルの周辺の歴史についてもそこそこは知っていたため楽しめました)。

そのためか、本作は『トレインスポッティング』『スラムドッグ・ミリオネア』で知られるヒットメーカー、ダニー・ボイル監督とこれまたヒットメーカーのアーロン・ソーキン脚本の黄金コンビで作られたにもかかわらず、ヒットとは程遠い興行収入に終わったようです。

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